「1人の10歩より10人の1歩」マルモイ ことばあつめ kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
1人の10歩より10人の1歩
韓国に初めて行ったのは90年代でしたが、道を尋ねるため同僚の一人が韓国人のおじさんに英語を駆使して説明してもらおうとしてました。英語がさっぱり通じないらしく、慌てて日本語に切り替えて質問すると、日本語で丁寧に道を教えてくれました。あ、日本語通じるじゃん!と、当時は何も知らず、韓国=日本語OKと単純に理解してしまいました。それでも“弁当”にあたる朝鮮語“トシラク”が無くなりつつあるとかのエピソードもビックリです。そーいや、家族、約束、記憶、無料とか似たような韓国語がありますもんね。
1910年の日本による韓国併合以来、朝鮮語を話せない者が増えていき、1940年代には民族精神消滅政策がとられていた。全国の学校では朝鮮語が使用禁止となり、“国語”の時間には日本語が教えられていた時代の物語。朝鮮語を守ろうとするリュ・ジョンファンが朝鮮語学会にて辞書(マルモイ)編纂を目指して早10年が経ち、総督府の官僚からはずっと監視されている状態だった。
学校でそれまでの母国語が禁止される。戦争や植民地化された国にはよくおこる悲劇だ。創氏改名に関しては映画でも強制的ではなかったように描かれているけど、戦争が激化する中、単なる親日派としてではなく、皇国臣民として中学生を徴兵するために日本式の名前に変更させられた事実も描かれていた。
物語は史実をもとにしたフィクションであり、朝鮮語学会の地下活動として辞典を作ろうとしていたリュとスリのキム・パンスの物語。パンスの刑務所仲間の存在や、学会のメンバーも身内が刑務所内にいたりする設定が上手く生かされ、手入れや拷問、密告などスパイ的な内容にも驚かされました。さらにパンスが非識字者であり、徐々に文字を覚えていく様子も見事。最も効果的な伏線はたんぽぽ、枕、映画館や“信用”でした。
1人の10歩より10人の1歩。朝鮮人として日本からの独立を果たすための同志を集め、辞書を作ることで母国語を保存しようとする非暴力革命の様相を見せていた。そんな彼らの熱い闘いには思わず涙してしまう。
残念なのは日本人役を韓国人が演ずることでの日本語の違和感だけ。それでもちゃんと日本語字幕がついているのでストレスも感じない。日本人俳優がこうした韓国映画に出演できるのはいつのことになるのやら・・・