「家族に何を望むか」望み 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
家族に何を望むか
『人魚の眠る家』『友罪』『楽園』『影裏』…時に残酷なテーマを突き付ける邦画のヒューマン・ミステリー。
本作も然り。もし、自分や家族がこの立場だったら?…と、胸抉られるほど。
石川家。
父・一登は一級建築デザイナー。
母・貴代美は出版関係の在宅ワーク。
高校生の長男・規士はサッカー部の花形選手。
中学生の長女・雅は名門校受験控え。
郊外の洒落た一軒家は自慢のモデルルームにも。
何不自由無く、誰もが憧れ、羨む、裕福で平和な暮らし。
が、ある日を境に一家に暗い影が落ち始める…。
規士が怪我でサッカーを辞めて以来、塞ぎがちになる。家族との会話も減り…。
そんな規士に一登は「何もしなければ何も出来ない大人になる」と声を掛けるのだが…。
そして、事態は起きた。
同級生との夜遊びが続いていた規士。
ある日、家を出たきり帰って来ない。
その直後、同級生が何者かに殺害された事を知る。
警察から詳細が抑えられている中、もう一人、被害者が居る事が判明。
息子はその被害者なのか、それとも加害者なのか…?
家族が事件に何かしら関与していて、被害者なのか犯人なのか。
あると言えばあるテーマ。
しかしそういう場合、家族は身内の無実を信じる。
が、本作は違う。そこがある意味、エグい。
一登は息子が被害者だとしても、無実であって欲しいと思っている。
妻は息子が加害者だとしても、無事で帰って来て欲しいと願っている。
つまりこれ、分かり易く言うと、もう息子が死んでてもいいか、犯人でもいいか?…で、意見が真っ向対立。
本当にゾッとするほどだった。自分の家族だったら…?
一登の思いも分かる。息子は元々優しい性格。そんな人を殺める行いなんて絶対しない。
…しかしそれは同時に、今の暮らしを手放したくない本音もあった。実際すでにマスコミにあれこれ報道され、仕事もキャンセル相次ぎ、昵懇あった得意先からも酷い仕打ちを受け、崩壊しつつあった。妻の鋭い指摘は痛かった…。
貴代美の気持ちも分かる。人様や世間に罪を犯した息子。謝っても許して貰えないかもしれない。でも、それでも。生きていて欲しい。母親が子を想う気持ちは強い。
…そう、強いのだ。もし息子が加害者だったとすれば、もう今の暮らしには戻れない。その覚悟すら出来ている。息子が生きてさえいれば。
どっちがいい悪いなんて、答えは出ない。絶対に。
憔悴していく一登。
精神不安定になっていく妻。
次第にすれ違っていく…。
悩み苦しんでいるのは両親だけではない。娘も。思春期なら特に。
彼女の意見は…? 戦慄すらした。
「被害者であって欲しい。加害者だったら、困る」
ある時一登は、息子から取り上げたナイフが無くなっている事に気付く。
被害者だと思っていたが、加害者なのか…?
貴代美は同級生から、犯人じゃないと信じてますと声を掛けられる。
加害者でもいいから無事でいて欲しいに固執し過ぎていた。どうして信じてやれなかったのだろう。そうなのだ。息子は、加害者ではなく無事なのだ。
そんな時遂に、事件が急変する。
果たして、息子は…?
『悼む人』では天童荒太、『人魚の眠る家』では東野圭吾、本作は雫井脩介のベストセラー小説を映画化。
すっかり濃密で重厚な心理ドラマに手腕を発揮するようになった堤幸彦。
家族間の葛藤、少年犯罪に切り込み、考えさせられる。
堤真一、石田ゆり子、岡田健史、清原果耶の“家族”の熱演!
堤と石田の両ベテランは言うまでもないが、ここは敢えて2人の子供を特筆したい。
岡田は行方不明になる役故出番はそんなに多くはないが、影とナイーブさを持った難しい役所を体現し、印象に残る。
序盤は明るい役柄の清原。話が進むにつれ、両親への反発、兄の犠牲になって受験を諦めたくないなど複雑な感情爆発。同世代ピカイチの演技力の評判に偽りナシ!
結末はこれで良かったのか…。
悲しい。
どっちに転んでも悲しいが、悲しい。
しかしそこに、ある思いが…。
自分の未来を変えようとしていた規士。
未来は変えられる。
でも、ただ言うだけじゃ変わらない。しなければ。そう、
“何もしなければ何も出来ない大人になる”
父の言葉はしっかり息子の心に届いていたのだ。
家族同士ってどうしても、面と向かってだと恥ずかしい。照れ臭い。
特に父親と息子なら。
でも実は、父親の事を尊敬している。
息子の事を信じ、誇りに思っている。
残酷なテーマの果てに…
家族の思い、愛。
望み。
近代さん 共感をありがとうございますm(__)m。近代さんのレビューを読ませていただくと 私のは 恥ずかしいです…😅近代さんのレビュー 本当に解りやすくて、NOBUさんのご意見 私も そう思います。
今晩は
以前も一度コメントさせていただきましたが、近代さんのレビューはポイントをきちんと記載されたレビューが多いので、出版されたらいかがですか?
私は、購入するなあ・・。
だって、レビュー数も凄いし、映画鑑賞選択に迷った際の参考になりますし。