劇場公開日 2021年3月26日

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「美しくも儚い奇想譚」水を抱く女 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5美しくも儚い奇想譚

2021年3月25日
PCから投稿

美しくも儚い白昼夢に包まれているかのような味わいだ。ぺツォール監督の語り口が他のどの映画監督とも異なる感性に満ちているのは『東ベルリンから来た女』をはじめ数々の作品からお馴染みだが、いにしえより語り継がれる「ウンディーネ伝説」に材をとったと思しき本作も、ぺツォールが紡ぐと一味も二味も違う現代的な奇想譚へと生まれ変わる。まずもってベルリンという大都会で暮らすヒロインの日常は、その序盤、果たしてこれからどうやって水と結びついていくのか露ほども想像が及ばないものだ。そこに出会いが訪れる。ハッとするほどの鮮烈な描写と共に。さらには、ベルリンと郊外とをつなぐ列車での距離移動と、水深く潜っていく垂直移動。都市発展についての解説が浮き彫りにする時の移動。これら3つの絶えざる流れが不可思議に渦を巻くところにこそ、現代のウンディーネは降臨するのだろう。小品ながらその余韻がずっと胸のどこかに留まり続けている。

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牛津厚信