「ポッター監督ならではの感性息づく記憶世界」選ばなかったみち 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
ポッター監督ならではの感性息づく記憶世界
英国監督サリー・ポッターの作品には、いつも何かしら鮮烈な感性が迸る。本作も小さな物語ながら、内面世界はたった一日のお話と思えないほど広大かつ複層的だ。ポッターの分身でもあるエル・ファニングと認知症を患う父親役ハビエル・バルデムのやり取りは、これまで想像もつかなかった二人の共演なだけあって、抑制された中に確かな化学反応が垣間見える。と、ここで父親の記憶のうねりを現実と同時進行させながら重ねていく描写に、ノーラン監督作「インセプション」を思い出す人も多いのではないか。ただし、あくまでポッター流の記憶世界なだけあって、現代のニューヨークとギリシアの海辺と、はたまたメキシコ砂漠地帯という3つの場所が入り乱れる様には、視覚のみならず音や肌触り、匂いすら漂う感性がいっぱいだ。86分でこれだけの奥深さや関係性を端的に描ける人は他にいないだろう。つくづく人間の心は味わい深い感情のパズルなのだと思い知った。
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