「遠のく記憶、消えない後悔」選ばなかったみち 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
遠のく記憶、消えない後悔
身内の話から始めて恐縮だが、私の父も晩年、アルツハイマー型認知症を患った。診断されてからは進行を遅らせる薬を飲んでいたが、ゆるやかに記憶を失い、日常生活でできなくなることも少しずつ、しかし着実に増えていった。
本作の主演の一人、ハビエル・バルデムが演じるメキシコ移民の作家レオも、若年性認知症を患い、かなり症状が進行している。一人ではもはや生活できず、娘のモリー(エル・ファニング)とヘルパーの助けがなければ生きることもままならない。周囲への反応が鈍く、ぼんやりしているように見えるレオはしかし、頭の中で、メキシコ時代に愛していた女性(サルマ・ハエック)との日々や、執筆に行き詰まりギリシャの海辺で過ごしたときを思い出し、後悔の念にとらわれている。
現在のレオの表情は乏しく、時折混乱したりおびえたりする様子を、認知症の身内がいる/いた人なら胸を締めつけられるような思いで見るはず。バルデムの演技は真に迫っており、回想シーンでの健常だった頃との対比も印象的だ。
人生の重要な分かれ道――家族のこと、パートナーとの関係、仕事のうえでの決断など――で、あの時に選ばなかった道をもし進んでいたらどうなっただろう、と折に触れふと考えてしまうことは、ご多分に漏れず私にもある。アルツハイマー型は遺伝するケースも多いと聞く。この先記憶が薄れていっても、後悔は消えずに残るのだとしたら……と鑑賞しながらやるせない気持ちになった。
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