劇場公開日 2023年12月22日

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「どん詰まりの世界に生きる男たちの思いと挫折」ファースト・カウ あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0どん詰まりの世界に生きる男たちの思いと挫折

2024年2月7日
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鑑賞方法:映画館

「西部開拓時代の原風景」とか「男たちの友情物語」とかキャチフレーズがついているけどちょっと違う。
舞台はオレゴン。流れる大きな川はコロンビア川だろう。オレゴンの一番北になる。通常想像する開拓時代の西部の風景とは違って森と川、湖ばかりの土地でこれは今も変わらない。冬はとんでもなく寒く、森の中は害虫、害獣だらけ。当時はさぞ過酷な環境だったろうと思う。
地図を見れば分かるけどオレゴン州は太平洋べりで最早、西には海があるだけ。
アメリカには最初はイギリス人、ついでアイルランド人、東欧系、イタリア人、ロシア人と様々な国から移民が入り押し出されるように順に西を目指した。オレゴンはどん突き。一方、中国人はサンフランシスコに上陸し西を目指した。北に来たキング・ルーは変わり種なんですね。
だからこの映画は、吹き溜まりのようなこの土地で生きる糧を探す男たちの物語である。
吹き溜まりというのは統治者も同じ。オレゴンが合衆国に統合され33番めの州になったのは1859年。それまではイギリスとアメリカがこの地を共同統治していた。実質的な支配者はイギリス資本の毛皮商社で、先住民に睨みを利かすためにつくられた砦のイギリス兵が後押ししていた。だからトビー・ジョーンズ演ずる仲買人は毛皮商社の重役で砦の隊長ともどもイギリス人です。ロンドンやパリを懐かしみ、僻地にいることに苛立っている。だから犯罪者や自分たちに従わない人間に必要以上に過酷だったりする。
ミルクを盗むくらいでも命懸けなんですね。
クッキーとキング・ルーの関係は「友情」といったありきたりな言葉では説明できない。確かに出会いのときから気が合う二人ではあるが、クッキーは心優しく、キング・ルーは山っ気がありタイプが異なる。二人ともこの行き止まりの世界で生き抜きたい、できれば脱出したいという思いがあるからこそ連帯したのでしょう。
そして彼らの作戦は失敗し挫折に至る。この監督は極力、暴力表現を使わないのですが殺されたことは分かる。彼らの無念は骨になって、100年か150年後に伝わっていく冒頭のシーンとなる。
最後に一つ。この映画はスタンダードサイズです。ヴィスタやシネスコに比べ撮影深度が深く奥行きがよく表現できる。そこで監督は登場人物の前後の動きを増やしてスタンダードの良さをよく活かしている。最近、なんちゃってスタンダードの作品が多くなんのためにスタンダードにしているんですか?って言いたくなるのですが、久しぶりに意味のある使い方の作品を観ました。

あんちゃん