「盗んだミルク」ファースト・カウ sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
盗んだミルク
とにかくスローな時間が流れる映画という印象。
ただゆったりはしていても長閑で牧歌的というわけではない。
登場人物は皆粗野だし、どこか頭が足りない。
地中から白骨化した遺体が二体も掘り出されるという幕開けに何やら不穏な空気を感じさせられる。
時代はどうやら開拓時代で、料理人のクッキーはビーバーの毛皮を獲るための猟の最中に、ロシア人に追われる中国系の移民であるキング・ルーを匿う。
そこから二人の友情が始まるのだが、ある夜二人はその土地の有力者である仲買商の所有する牝牛からミルクを盗んでしまう。
料理の得意なクッキーはそのミルクでドーナツを作るのだが、キング・ルーはこれは商売になるのではないかと思いつく。
二人ともそれぞれに叶えたいアメリカンドリームがあり、そのためには金が必要なのだ。
クッキーの作るドーナツは瞬く間に評判になるが、その名声が仲買商の耳にも入ってしまう。
ドーナツの味を気に入った仲買商はクッキーに特別な菓子作りを依頼し、二人を自宅に招待する。
果たしてこれはチャンスなのか、それともピンチなのか。
人は何かを成し遂げるためにリスクを犯さなければならない時もある。
しかし人から物を盗むのは絶対に犯してはいけないリスクだ。
悪事を働けばいつかはその報いを受けることになる。
慎重になるクッキーに対してキング・ルーは調子に乗ってやり続けるべきだと主張する。
結果、二人の行為は仲買商にバレてしまい窮地に立たされることになる。
二人は逃げる途中にバラバラになってしまうが、最後までお互いを気遣い続ける。
美しい友情物語とも取れるが、ただ単に危機感が足りないだけとも取れる。
終盤になってようやく冒頭の白骨化した遺体の存在を思い出して、そういうことかと納得させられた。
観終わった後に色々と考えさせられる作品ではあった。
決してマイノリティに強くフォーカスを当てた作品ではないが、これもアメリカのひとつの姿なのだなと思った。
二人は最後まで何者にもなれなかったかもしれない。
しかしそれでも最後まで二人が友人であり続けたことには何か大きな意味があるのかもしれない。