「開拓時代の米国オレゴン州。 シカゴでベーカリー修行の経験がある料理...」ファースト・カウ りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
開拓時代の米国オレゴン州。 シカゴでベーカリー修行の経験がある料理...
開拓時代の米国オレゴン州。
シカゴでベーカリー修行の経験がある料理人クッキー(ジョン・マガロ)。
「ソフトゴールド」と呼ばれるビーバーの毛皮の狩猟を行う3人組に加わった。
ある日、ロシア移民たちに追われている素っ裸の中国人移民キング・ルー(オリオン・リー)と出逢う。
仲間に隠してルーを逃してやったクッキーは、人々が集う砦に到着。
約束の銀貨一袋を得たところ、先に砦に到着していたルーと再会し、ルーの小屋で暮らすことにした。
そんなとき、砦の有力者である英国人の仲買人(トビー・ジョーンズ)のもとに一頭の乳牛がやって来る。
ルーとクッキーはその乳牛からミルクを盗んでドーナツをつくり、野天の市場で売ることを思い立つ。
それは、アメリカンドリームともいえるものであったが・・・
といった物語で、冒頭、現代の米国オレゴン州の川岸近くで、犬を連れた女性が二体の白骨を発見するところからはじまり、先の物語へと展開します。
なので、並ぶように埋もれた二体の白骨がクッキーとルーだということは、すぐに気がつくわけで、物語の面白さを愉しもうという向きには甚だツマラナイということになるでしょう。
実際、映画としてはリアリズム重視で、夜間シーンはおろか昼間のシーンも明るくなく(なにせ樹木が鬱蒼と茂っている)、目を凝らしても何が映っているのかがわからないシーンも多く、輪をかけて悪いことに、日本語字幕の白さが際立って、陰影ある画面をさらに判別しづらくしています。
また、物語もクッキーとルーが再会するまでのエピソードが意外と盛り上がらず、下手するとウトウトする可能性も(わたしはウトウトしなかったけど)。
で、映画が面白くなるのはミルク泥棒が始まってから。
幾度も映し出されるミルク泥棒のシーンは、映画の愉楽のひとつが「繰り返し」「反復」にあることを再認識します。
でね、この映画、「男たちの友情」という紋切型で紹介されていますが、ま、これを友情というなら友情。
成り行きといえば成り行き。
ケリー・ライカート監督は、ミニマムな物語の中に「アメリカの本質」のようなものを常に描いており、本作でもそれは色濃く出てきていました。
特に感じたのは、彼らがミルク泥棒をはじめるきっかけで、
「事業をはじめるには、奇跡に恵まれるか、借金をするか。奇跡は来ないだろうし、誰も金を貸してくれない。残るは、犯罪に手を染めるかだけだ」と。
なるほど。
また、仲買人と彼が招いた軍人とのやり取りも興味深く、軍人には先住民の族長も随行していたりもする。
この先住民との関係ももう少し掘り下げてみてほしかった気もするが。
なお、西部開拓時代を描いたケリー・ライカート監督作品では、出演者の豪華さ(に比して内容の地味さも魅力)と先住民との関係を描いた『ミークス・カットオフ』を上に取ります。
本作がいまひとつだった方にも、本作に感心した方にもお勧めします(配信あり)。
<追記>
「男たちの友情」を描いた(といわれる)ライカート監督の旧作『オールド・ジョイ』は未見。
この後、鑑賞したいと思います。