「1時間強の会話の一つひとつを聞き落せない、なかなか油断ならない一作」逃げた女 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
1時間強の会話の一つひとつを聞き落せない、なかなか油断ならない一作
ホン・サンス監督はあたかも同じようなメロディを組み合わせ、変調させて新たな曲を作り出しているかのように映画を作るんだけど、本作も確かに、これまでどれかの作品で見たような場面、要素にたびたび出くわします。むしろ一連の作品群は連続した世界観でつながっているのでは、と思えてくるほど(例えばクォン・ヘチョの役回りとか)。この言葉を裏返すと、本作だけ鑑賞しても、作品の意図がつかみにくいと感じるかもしれない、ということです。実際のところ作中では大きな事件が起きることはなく、淡々と会話が展開します。その内容も他愛もない、と思えてしまうようなもので、うっかりしているとその意味を見落としそうになります。
ところがこうした穏やかなで他愛無さそうな会話とは裏腹に、なかなか注意深い鑑賞をようする作品です。夫との仲睦まじい関係をことあるごとに強調するガミ(キム・ミニ)だけど、表題の『逃げる女』を踏まえれば、何から逃げているのか非常に気になるところ。彼女が誰を訪ねて、どんな会話をしているのか、意識しながら鑑賞していくと、また別のドラマが見えてくるかもしれません。
それにしてもキム・ミニはホン・サンス監督作品において多様な役柄をこなして、そのたびに女優としての新たな側面が見えてくるところが面白いです。彼女の出演作で特に有名な作品は『お嬢さん』(2016)ですが、サンス監督作品における彼女の演技を横断的に辿ってみるのも面白いかも。
コメントする