「壮大なスケールの全体主義を体感したかったが、即興の密室劇だったDAUプロジェクト1本目」DAU. ナターシャ REXさんの映画レビュー(感想・評価)
壮大なスケールの全体主義を体感したかったが、即興の密室劇だったDAUプロジェクト1本目
面白いかというと面白くはない。しかしつまらないかと問われれば、つまらなくはない。
「DAU.プロジェクト」とは、一つの町と研究施設を作り上げ、そこで旧ソ連時代の全体主義を再現するという大がかりのもの。ダウとはソ連のノーベル賞受賞物理学者レフ・ランダウのこと。
映像作品は今作を含め16作品の予定、このナターシャはそのうちの一部でしかないとのこと。
なので、この一作で判断しかねるものがある。
それにしてももう少しソ連らしさや、その大がかりなプロジェクトの一端が垣間見られるのかと思ったら、スケール感は小さい。
あくまでナターシャという女性の個人的な視点を没入感たっぷりに演出する。シナリオはあるがセリフは即興だったという。
そのためか背景の説明があまりなく、前衛的な即興劇のような感覚もうける。冒頭はいきなり愛についての禅問答が始まるし、キャットファイトは長い。
若いウェイトレスの同僚オーリャとの供依存のような愛憎関係、淡々と同じ事を繰り返す日々に不意に訪れる悲しみ、一夜を共にした外国人科学者に期待した恋愛関係の拒絶、人間または女性としての矜持を試されるKGBの拷問。
これが旧ソ連の女性のステレオタイプなのかもわからないが、少なくともナターシャが幸せではないことは伝わる。
その振る舞い方一つで優位性や関係性が変化する密室劇のようでもあった。
オーリャの家になぜ科学者たちが寝泊まりしているのか、いくら酔ってるからって、素っ裸にして風呂に突っ込む?など、不明瞭の点も多々あったが、15作すべてを俯瞰すると線でつながるのだろうか。
そして日本ですべて公開されるとも限らないが、今後に期待。
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