「【やっぱり悲劇、でも、映画は面白おかしく】」シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい! ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【やっぱり悲劇、でも、映画は面白おかしく】
1890年代のフランスでは、冒頭で紹介のあったドレフェス事件が起こったり、普仏戦争からしばらく経って、世界的に不穏な空気が再び漂い始めた時期だと思う。
そして、リュミエール兄弟が、映画の原型となる活動写真を発明した。
作品の中でも、もう演劇は古いものになって、これからは活動写真の時代だみたいなセリフがあるが、きっと舞台芸術も世情や新たな発明で岐路に立たされていたのだと思う。
エドモンに、それまでとは趣向を変えた喜劇作が依頼されたのも、そんな時代背景があったのかもしれない。
だが、シェイクスピアもそうだが、ギリシャ悲劇も、いつの時代も世界はずっと悲劇を求めてきた。
娼館で結核を患っていたチェーホフも悲劇の戯曲作家だ。かもめや桜の園などは有名だと思う。
そして、エドモンのシラノドベルジュラックはフランスの人々のカタルシスを刺激した。
クリスチャンへの友情、ロクサーヌへの愛情、叶わぬ恋心、詩人、騎士の強さ、シラノの死、こうしたものか全て合わさった物語は、人々の情緒を最大限に揺さぶるのだ。
映画は、この戯曲が出来上がるまでの数週間をテンポよく、ユーモアたっぷりに、多少は観る側の情緒も突っついたり、ドタバタも交えて、痛快に撮っている。
すこしハラハラさせられる場面や、フランス風のエロチックなところもあって、本当に楽しい。
そして、この有名な悲劇の戯曲作品が、手紙のやり取りを含めて、こんな風に出来上がったのか……と、改めてなんとも言えない、ちょっとハッピーな気持ちにもさせてくれる。
いつの時代も、悲劇は人々に支持されてきた。
人々にはカタルシスが必要なのだ。
ギリシャ悲劇の戯曲がどうやって生まれたか、シェイクスピア作品の誕生秘話など実は誰も知らない。
でも、実は、こんなユーモアや、ドタバタがあったのかもしれない。
そして、こうした戯曲や舞台芸術と切磋琢磨するように映画も発展してきたのだろう。
フランス映画らしさのあふれる秀作だと思う。