「戦争映画だからと敬遠するのはもったいない。一流の傑作。」T-34 レジェンド・オブ・ウォー ダイナミック完全版 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0戦争映画だからと敬遠するのはもったいない。一流の傑作。

2020年2月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

まず最初に、これはミリタリー系の知識の乏しい者によるレビューであるとお断りしておきます。本作を鑑賞中も、ドイツ軍の戦車は分かりやすい塗装だから良かったー、と思ったくらいですからね…。

ポスターやパンフレットのアートワークが示すように、本作は第二次世界大戦におけるソ連軍の戦車戦を扱った映画です。それ以上の情報を読み取ることすら困難なほど、明確で分かりやすい表現であると言えます。

映画の冒頭から、観客は独ソの戦車戦の只中に放り込まれます。戦車や砲塔の間近に備え付けられたカメラが捉えた映像は、猛り狂う戦車以外の要素が画面に入ることを拒絶するかのようです。そこには恐ろしいと言うよりも、ある種うっとりとしてしまうような様式美があり、さらに超スローモーションで砲弾の軌道に沿って飛ぶ視点が加わることで、一層演出の外連味が増しています(超スローモーション映像はいささかくどいけど)。

そして激戦をかろうじて生き残った主人公が、ドイツ軍の包囲網を突破せんとするところから、物語は猛然と動き始めます。ここからのたたみかける展開は見事です。ちょっと都合が良いと思うところもないではないですが、そんな柔な批判をあっさり蹂躙するほど、主人公を始めとした精強なソ連軍軍人は、知恵と技術を振り絞って、圧倒的に強大なドイツ軍に立ち向かっていきます。主人公達には孤軍、限られた砲弾という非常に分かりやすい制約を課す一方、包囲網を狭めるドイツ軍と目的地までの位置関係を一目で分かるように示すなど、黒澤明の『隠し砦の三悪人』や『七人の侍』を連想させるような、動きと視覚を巧妙に組み合わせた演出が成されており、最後まで目を離させません。『1917』や『ダンケルク』も、臨場感という点では非常に優れた映画ですが、本作は戦闘に肉薄した映像と制約の見せ方の両方を組み合わせて臨場感を醸し出していると感じました。

凄惨な戦闘場面とは対比的に、戦車が走り抜ける林道や草原の美しさは目を見張るものがあります。本作でほぼただ一人の女性の登場人物の描写は素晴らしく、ちょっと『初恋の来た道』を連想させるような場面もありました。製作を務めたニキータ・ミハルコフの影響でしょうか。

手に汗握る痛快戦争アクション映画として幕を引くかと思いきや、幕引きに示された最後の一文に思わず泣きそうになりました。この大戦で未曾有の犠牲者を出した旧ソ連(ロシア)の人々が書くからこその、非常に重みのある文でした。

戦争映画やミリタリー物に疎くても非常に楽しめたのですから、これらに精通している人はもっと楽しめるんでしょうね。そうした方々が少し羨ましくなりました。パンフレットに武器や戦車の詳細な解説が掲載されているのですが、現時点ではあまり理解できないので、これからゆっくり解読していきます。

yui