劇場公開日 2020年11月27日

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「二人の生き様とぶつかり合いが、観る側を本気にさせる」アンダードッグ 前編 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0二人の生き様とぶつかり合いが、観る側を本気にさせる

2020年11月29日
PCから投稿

ボクサーを描く映画はみな少なからず同じ構造を持つ。すなわち人生を描き、そして対決を描くということ。この前後編で4時間半にも及ぶ長編は、序盤、実にスロースターターとして、地べたの人生を路上の反吐が映り込むかというくらいの過酷さで泥臭く描き込んでいく。そこで交わる3人の魂。とりわけ「前編」では二人のエキシビジョンマッチにむけて照準が絞られ、それぞれの思惑の差こそあれ、とてつもない熱量の戦いが繰り広げられる。映画の基調トーンを司るのが森山の鋭くも劣等感と優しさも秘めた目線ならば、そこに変化球を投げつけて他のボクシング映画にはない奇妙な質感を巻き起こすのは勝地の役目。その化学変化と、両者ともに後には引き返せないという覚悟が、観る側を本気にさせる。さらに言えば、彼のセコンドに立つ山本博のセリフ一つ一つが、さも観客の思いを代弁しているようで胸を打った。試合終了のゴングが鳴る頃、自ずと涙がこぼれていた。

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牛津厚信