劇場公開日 2021年1月15日

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「わかりにくい点もあるが、隠れた問題提起もはらんでおりお勧め。」43年後のアイ・ラヴ・ユー yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0わかりにくい点もあるが、隠れた問題提起もはらんでおりお勧め。

2021年1月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

今年12本目(合計79本目)。

実話に基づくお話ではないようですが、アメリカに限らず日本でもあっておかしくはない話。これから高齢化がどんどん進んでいくからですね。

お話の内容としては非常に単純明快で余計な描写(どうでもいい趣味的な描写)もなく、しかもエンディングもだいたい想定はつくので(そしてその通りになる)、そこへどう収束させるか、そこが見ものにになりますが、それをどうこう書いてしまうとネタバレになっちゃいますからね。

さて、この映画ですが、いわゆるこれからの高齢化社会に向けて、高齢者自身の考え方(自宅で過ごしたいor老人ホームに入りたい)、子供たちの考え方(自分たちで介護したい or お金はかかるが老人ホームに入れて自分は自由にしたい…)といったことが背景に隠れており、要は「高齢化社会となった、近い未来の家族の在り方」を問うている部分も一部にはあります(ただ、それを表立って問題提起している部分は少ない。辛うじて読み取れるかという部分)。

「特集」にある通り、シェークスピアの作品の一部が引用されていますが、それ「だけ」のためにその作品に触れたりすると大変なことになるので(そっちの量のほうが多い)、そこは触れなくても良いのでは、と思います。

 減点要素・加点要素を踏まえて、下記で4.9で切り上げて5.0にしました。

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 (減点0.1) 施設の中で「こんなミュージカル・映画に出ただろう?覚えていないの?」と問い詰めるところ。一部は日本語訳されていますが、「エンブレイス・ミー」の部分はそのまま。要は、 embrace me で、訳せば「私を抱きしめて(抱擁して)」の意味。embrace には「抱きしめる」の意味があるのですが、これはそれこそ英検準1以上の単語で(TOEICで出てくることはほぼもってない)、そこはもうちょっと字幕に工夫があっても良かったかなぁ…とは思えます(英語力の差で理解に大きな幅が出てしまう)。

 (減点0.1) もちろん、資格がないのに老人ホームに偽って入るのは犯罪ですが、さらにそれが進んでいくと、それは「felony(重罪)だ」という表現が登場します。felonyは「重罪」と訳されますが、日本でいえば強殺や2人以上の殺人などで、それは海外でも文化の違いはあっても、対象とされるものはだいたい決まっています(州によっても異なる。felony level 1~6の6段階制だったり、A~Cの3段階制だったりするが、概して日本では重罪といえうるものか、それに匹敵するものが入っている)。ただ、「だまして施設に入る」のは、どう見ても「行政の施設か民間施設に演技で入って数か月お世話になっただけ」であり、死刑や無期懲役になるような「重罪」事案ではありません(行政がやっている公的サービスだと、行政側にも見抜けなかった落ち度ありと解釈され、仮に起訴されても執行猶予がつきうる)。

 この部分はおそらく、「犯罪よりももっとひどいことになるぞ」という意味合いで使いたかったのだと思うのですが、ちゃんと felony という語を知っていると「???」ということになってしまうので、少し、うーん…という気はしました(もちろん、舞台となるアメリカでも、いわゆる「量刑相場」というものは存在するので、殺人などでなくただ単に「詐欺行為でサービスを数か月利用した」だけであるなら、起訴猶予になってもおかしくもない)。

 (加点0.1) 上記のように、ストーリーの筋としては非常にわかりやすく、しかも変に「どうでもいい描写」(何ら無関係な大人の営みが突然描写されるなど)もない一方、よくよく考えれば「高齢化社会となったときの、高齢者の自分の老後の暮らし方、子供たちの親(=老人)への介入のしかた・ありかた」といった部分が背後に隠れており、それを全面に出さず、「よく考えればそういうテーマがあるよね」という点が明確に読み取れる(通常の理解であれば読み取れるかと思います)点は、「隠れた問題提起」という点であり、そこは良い点かなと思いました。
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yukispica