「ほぼ少女漫画」悲しみより、もっと悲しい物語 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
ほぼ少女漫画
印象としてはほぼ少女漫画である。少女漫画が悪い訳ではないが、世界観が浅い登場人物たちが一定の思い込みで行動するストーリーが多く、登場人物の個性や人間の複雑さを描ききれていない点でリアリティに欠け、感情移入がしにくい。本作品の登場人物たちはほぼ類型的でリアリティに欠ける部分があり、どの役の人物にも共感できないまま終わってしまった。
音楽も歌も悪くないし、役者陣の演技もそれなりである。にもかかわらず終始ピンとこなかったのは、死に対する恐怖感と生への執着についての表現が殆どなかったためだと思う。人間は死を恐れて生にしがみつく存在だ。今日買ったパンを明日食べようと思えば、それだけで少なくとも明日までは生きていける。死の恐怖は観念的だが、生への執着は即物的である。
本作品では生への執着も観念的に描かれていて、人間の泥臭さが感じられなかった。そのあたりが少女漫画のようであり、リアリティが欠如していた部分である。生々しい生がなければ死の恐怖も半減する。主人公が死を恐れ生に執着して、恐怖と苦痛と欲望にもがき苦しむ様子を描くことができていれば、共感も感情移入もできただろう。
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