「安らかに美しく死ぬか?苦しみながら無様に生きるか?」ドクター・デスの遺産 BLACK FILE スモーキー石井さんの映画レビュー(感想・評価)
安らかに美しく死ぬか?苦しみながら無様に生きるか?
本作は「安楽死」をテーマにしたサスペンス。
粗野で大人げないが人情味のある熱血漢の犬養刑事と
酒乱のおっさん女子だが、きっちりとした武闘派の高千穂刑事を中心に
警察組織の各セクションが一丸となって、謎の難病患者連続不審死事件の解決へ動く。
はたして事件の黒幕である「ドクター・デス」を止めることができるのか?
感想としては突っ込みどころはあるものの
どこかエモーショナルな昭和の刑事モノを彷彿とさせ、かつ医療技術の進歩したこの現代における
介護や看護における綺麗ごとなき現実とジレンマ、そしてドクター・デスと刑事たちの戦いを通して「死と生」についての問いを改めて提起している。
こと日本においては『葉隠れ』の「武士道は死ぬことに見つけたり」と言わんばかりに死ぬときでさえ、いや死ぬ時こそ人に迷惑をかけてはならないことを美徳とし、弱体化したものの未だにそういったものを強いる「恥」の文化の社会だ。
故に、本作のように明らかに人為的な行為で現時点では違法な「安楽死」も
介護や看護で「困難」を強いられているご家族の方やその家族に迷惑をかけている事にさえ「苦しみ」を感じている難病の患者さんのことを想うと個人的にはそれは「尊厳死」ではないかと思うし、劇中犯人が提唱する「死ぬ権利」も認めてもいいのではないかという「迷い」もある。こればかりは答えの出ない問いだし、
状況次第では私自身もいつ「ドクター・デス」に憑りつかれてもおかしくないと考えている。
最後に、人間は「美しい死に様」を求めているのか?それとも「無様な生き様」を望んでいるのか?
野生の生き物としての本能はおそらく後者のように他を押しのけてでも「生」にしがみつくことだろう、一方でこの監視の目が良くも悪くも行き届いた成熟した世の中に生きる人間である限りは前者のような何もできない・してやれない自分なりの「けじめ」を願うのかもしれない。