ワイルド・スピード ジェットブレイク : 映画評論・批評
2021年8月3日更新
2021年8月6日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
キャラクター全員の個性が輝く! シリーズ完結に向けた作り手の強い意志を感じる
「ワイスピ」が終わる気だ! シリーズが始まって20年、今回の9作目が最終章三部作の一本目であることはすでに発表されている。複数あるスピンオフ企画を脇に置けば、泣いても笑ってもあと3本。しかし、ただドミニク・トレットと仲間たちの物語が終わるという以上に、今回の「JET BREAK」は完結に向けた作り手の強い意志を感じるのだ。
今回の趣向はズバリ「ドミニクに弟がいた!」(予告編でも明かされた「ハンが生きていた!」の方がファンには重要だと思うが、海外のSNSでも湧いた#JusticeForHanについては今後の展開を待つしかない、というのが筆者の見解です)。WWEレスラーのジョン・シナが弟ジェイコブ役に選ばれたので、ついロック様不在の穴埋めか?と思ってしまうが、若い頃にさかのぼり、ドミニクたちの父親の死にまつわる家族の葛藤のドラマはちゃんと一作目の設定を膨らませており、取ってつけた感じではない。
映画自体、これまで明かされなかった若い頃から始まるので(丁寧に冒頭のユニバーサルのロゴもフィルム仕様)、シリーズに親しんでいなかった人でも入りやすいのではないか。あとは、なんか世界を守ってくれる元犯罪者の仲良し集団がいる、ということだけ知っておけば、大きく戸惑うこともないだろう。
「ああ、ワイスピだ!」と嬉しく思うのは、どれだけ荒唐無稽でデタラメであろうとも、キャラクターに愛情を注ぎ、輝かせることに注力していること。「ワイスピ」は5作目の「MEGA MAX」以降、キャストの有名無名に関わらず不思議なオールスター感を醸すことに成功しているのだが、今回はさらに一歩進んだ感がある。
というのも、脇キャラ枠にいたローマンとテズに、これほどまでにバカげていてなおかつ最高に感動的な見せ場を与えた回があっただろうか? さらにハッカー設定に縛られていたラムジーのキャラも膨らませ、類型的で面白味に欠けていたシャーリーズ・セロンのサイファーは、今回シリーズで最も魅力的な悪役に化けた。おそらく制作陣は、この最終章三部作でキャラクター全員のポテンシャルをどこまで広げられるかに挑んでいるのではないか。
それもまたシリーズ完結を見据えた結果だとしたら、一抹の寂しさを覚えなくはないが、まだあと数年はお祭りが続くので、ここは思い切り楽しんでおきたい。そしてヴィン・ディーゼル、早くロック様と手打ちにして、ホブス捜査官を呼び戻してくださいね。
(村山章)