劇場公開日 2020年6月20日

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「「私以外私じゃないの」の実写化」はちどり(2018) わたろーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「私以外私じゃないの」の実写化

2020年7月5日
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「この世界が 気になった」という文字が気になるこの映画のポスター。どんな世界に誰がどうして気になっているのかを見届けようと映画館で鑑賞。直前に美味しいものを頂いたせいか途中ウトウトしてしまったんですが、後半からは心を掴んで離さない素敵な作品でした。また、自分が見た上映回では、キムボラ監督のオンライン舞台挨拶も行われたことで、さらに感想を整理することができました。

物語の序盤では主人公は「自分の存在意義を感じられる世界」が気になっている。男社会の中、兄にばかり親の期待がかけられ自分には目を向けてくれない家族。万引きをしたりクラブ通いをしても心配されない。恋人といるときは幸せそう。

物語の中盤では主人公は「憧れである先生が見ている世界」が気になっている。中学生の前でも平気でタバコを吸う危うさがありつつも、自分の悩みを親身になって聞いてくれる、監督の言葉を借りれば『ロールモデル』と言える先生に少しずつ心を開いていく。

物語の終盤では、主人公は「私が私である世界」が気になっている。様々な出来事が彼女を襲う中で、橋の前で憧れの先生と向き合うシーンが印象的。「私」と「憧れのあなた」とは分断された現実を見ることで、憧れは憧れでしかないという示唆を得る。転じて、私以外私じゃないのである。報われない気持ちも整理して生きていたいと思う、心と身体のしこりを削ぎ落とした主人公の未来や世界の見え方は、きっと明るいものになっていると思う。本当に緻密な脚本・演出である。

監督のオンライン舞台挨拶の発言を聞く限り、かなりのフェニミストのようだし、登場人物が女性が多いけど、決して男性が悪いという描き方をせず、男性優位・女性が生きづらい社会構造に問題があると描いている点も誠実だなと思った。また、女子中学生を「かわいい」「何も考えていない」「お人形のような存在」と描かれているのに飽き飽きしているようであった。この映画の女子中学生の方が確かにリアルである。

説明セリフを極端に減らしていることは好みと評価に大きく関わってくると思う。自分は物語に解釈を生み出す余白は好きなので歓迎だけど、せめて先生を辞めた理由だけは説明があったら良かったかなと思う。たとえば、先生にプレゼントのお礼を伝えに会いに行くシーンで、別のキャラクターに語らせるとか、家の中に映る2枚の写真にその理由をもっと明示させるとか。自分は休学理由を学生運動の参加と解釈しているけどどうなんでしょうか。

とにもかくにも、過剰な演出も説明もないけれど、肝心なことは言葉でなく表情や佇まいで伝えるというのは優れた作り手にしかできない芸当だと思うので次回作も大いに楽しみです。あと、ゲスの極み乙女。は「私以外私じゃないの」をヒットさせながらも2020年の新曲では「私以外も私」とアップデートさせた作品を提示している。次回作以降に、女性社会についてさらなる示唆が得られれば頼もしい限り。

わたろー