「【"四季の移ろいと共に・・”亡き夫と愛した椿の庭のある葉山の海を眼下にする一軒家に住む、高齢の女性が相続税により家を売る覚悟を決める姿を美しき四季の自然を背景に描き出した作品。】」椿の庭 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【"四季の移ろいと共に・・”亡き夫と愛した椿の庭のある葉山の海を眼下にする一軒家に住む、高齢の女性が相続税により家を売る覚悟を決める姿を美しき四季の自然を背景に描き出した作品。】
ー あの日、僕が住んでいた家の近くをいつものように歩いていたら、見覚えのない空き地に足が止まった。
あの家がない。穏やかな静寂に包まれていた古い家。
優しい木漏れ陽を歩道に落としてくれていた大きな木が跡形もなく、消えていた。
そして思った。ここに暮らしていた一度も姿を見かけた事の無かった人の事を・・。
急ぎ、家に帰り自然にペンを取った。
庭には、椿の花が咲き誇っていた。
15年前の春先。あの日、この映画が始まった。ー
今作の監督であり、写真界の巨匠、上田義彦の言葉である。
◆感想
・富司純子さんの和装の、品のある佇まいに圧倒される。
背筋をピンと伸ばし、亡き夫の49日の法要を滞りなく終える姿。
■日本の相続税は、相続する側には厳しい制度である。基本思想は、今作でも描かれている通り、資産の再分配であり、格差是正でもある。
戦後、多大なる財産を持っていた、華族が急速に衰退して行った理由でもある。
・今作では、何気ない日々の尊さや命のはかなさを、四季折々の草花と、それを愛する富司純子さん演じる絹子や、同居する孫の渚(シム・ウンギョン)の姿を通して描き出している。
自然光のみで撮影した、絹子の家の美しさ。
夫の旧友が訪れて来た時に聴く、「ザ・ブラザーズ・フォア」の”Try To Remember"がこの静かなる作品に動的な趣を与えている。
・少し残念だったのは、室内のシーンが暗すぎて、重要なシーン(渚の駆け落ちした母からの絹子への手紙)が、見づらかったことであろうか・・。
<命あるモノは、花も人も若き時は美しく成長するが、いつか最期が訪れる。
”もし、私がこの家から離れてしまったら、ここでの家族の記憶などを総て思い出せなくなってしまうのかしら”と絹子が寂しげに呟くシーンは切ない。
だが、それだからこそ、今を大切に生きる必要があるのだ、と思った作品である。>
■税理士役を演じた、名優張震(「牯嶺街少年殺人事件」で、小四を演じていましたが、大きくなったものだ。)が、
”富司純子さんが、四季の移ろいと共に、家を売る決意を固めていく姿の表現に驚いた”
という、逸話もあるが、納得である。