劇場公開日 2020年7月3日

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「【事実は小説より残酷…気づけば引込まれている映画】」MOTHER マザー 3104arataさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5【事実は小説より残酷…気づけば引込まれている映画】

2021年6月5日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

怖い

難しい

・2020年公開の日本の社会派ヒューマンドラマ映画。
・親族からも絶縁され、いく当てもないシングルマザー秋子とその息子周平が社会からもどんどん孤立していく。そして周平が最後に悲惨な事件を起こすまで…、という大枠ストーリー。
・現実で実際に起きた「少年による祖父母殺害事件」に着想を得て作られた作品のようです。

[お薦めのポイント]
・事実は小説より残酷…と思わざるを得ない事実に基づいた物語
・鑑賞後、必然のように「考え」させられてしまう=気づいたら魅了されて引き込まれている。

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[物語]
・終始救われませんでした。笑 ただ、秋子と周平の関係性が少し良くなったように見えた時に、ふと観ているこちらの気持ちが落ち着いた気がします。そんな些細なことに「こちらの感情を動かしてくれる」「それに気づかせてくれる」ような物語の運びがすごいなぁと思いました。情景を想像しながら愉しむ文学作品のごとく、登場人物たちの思考を想像しながら一喜一憂させてくれる、そんな繊細さを感じました。

[演出]
・表情で語らせる。目線で語らせる。まさに映像文学でした。これは観ているものが考えることこそ意味がある、と言わんばかり。わかりやすい答えは提示してくれません。定点カメラの長回しの意味、秋子の目線の意味、周平の感情…などなど。監督さんに「なんでこの映画を作ろうとしたのか」「だれに何を伝えてどうなってほしかったのか」など質問攻めしたくなるような物語・演出です。ダークなお話なのにそれくらい引き込んでくれる世界観が創り上げられた映画だと思います。

[映像]
・時折、定点で物語を映し出すシーンがあり、それが何を意味するのかが非常に気になりました。

[音楽]
・特に際立って感じたことはありませんでした。

[演技・配役]
・長澤まさみさん、奥平大兼くん、郡司翔くん。素晴らしすぎる演技力です。自堕落ながらも妙な芯を強く持つ秋子演じる長澤まさみさん、そのダメさと芯の強さのかけ合わせが「秋子に対する胸糞さ」「ちょっとだけ可哀そうかも…」という2つ感情の行ったり来たりをさせてくれました。奥平大兼くん、郡司翔くん、似すぎです。笑 そして、社会を知らず母しか知らない無垢さ、が仕草の一つ一つにあふれ出ていて、何を言わずとも何をせずとも、周平君のキャラクターがしっかり伝わる演技になっていました。

[全体]
・秋子と周平は、母と子であり、友達同士であり、恋人同士であり、夫婦であり…1つのカテゴリではくくり切れない関係性を感じました。それが、物語の台詞でも出てくる「執着の関係」なのかもしれません。子供を単なるモノ扱いする母親ならば、口の利き方ひとつにも怒り狂い、それゆえ子供は「はい」「わかった」など素直な言葉しか言えなくなるイメージがあります。いわゆる恐怖による支配です。しかし、周平君は普通に「嫌だ」「なんで早く帰ってこないの」と秋子に対して普通に口ごたえ的な発言をします。その発言の言葉尻に秋子は怒らないんです。怒るのは「自分の思い通りに動ていくれない周平君の行動」に対してのみ。この辺が、まるで小学生の友達同士のような関係に感じました。そして、阿部サダヲが2回目に2人のもとを去っていったときに、秋子が周平君にもたれかかるシーン。これはまるで異性間のような雰囲気が伝わってきました。周平君自信も恐怖による支配ではない秋子だからこそ「守らなければいけない」と思ったのでしょうか。
・作中、秋子は自らの性を利用してうまく生きているように見えていましたが、よくよく考えれば、これに乗ってくる男たちは、結局秋子を「その場の楽しみ」としてしか扱っておらず、決して大切にはしていない。つまり、秋子が利用しているように見えて秋子自身が利用されているのかなぁ、とも取れました。そう思うと、終始残酷な秋子に対する「可哀そう…」という気持ちが芽生えてきてしまいます。子供に対してひどいことをするダメダメなMotherに怒りを覚えつつも、社会からはひどい仕打ちを受けているMotherに対する哀れみも抱く。その2つの感情を微妙に行ったり来たりさせてくれるところは見どころだと思いました。
・「いやいやここまでひどいことなんて現実にはないでしょ」と思っていましたが、調べると実際にあった「少年による祖父母殺害事件」をベースに作られた映画と知り、現実の恐ろしさを覚えました。世の中では作中のようなことが実際に起きていて、周平君のような、ごく一般的な私たちから考えると、どうにも報われない子供が存在している恐ろしさ。
・一度観ただけですと、いまだに混乱のさなかにいる私ですが(笑)、少なくとも「なんでこんなことが起こってしまうのか」「なぜFatherではなくMotherなのか」「結局に誰に何を、何の目的で伝えようとしているのか」など、考えざるを得なくなってしまいます。これこそまさに映画に魅了されて引き込まれた状態なのかもしれませんね。いずれもう一度、トライしてみたいと思います。ありがとうございました。

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3104arata