「誰も救われない」MOTHER マザー とくめいさんの映画レビュー(感想・評価)
誰も救われない
一言で言うと、悲しく後味の悪いお話でした。
どなたかのレビューにもあったように、「真の悪を前に、善だけでは勝てない」という言葉がぴったりと収まるような感覚です。
手を差し伸べてくれた人達をするりと抜けて、そのたびに「すがって、助けてと言えたはずなのに」と何度も思ってしまうような作品でした。
誰が悪い、誰がダメ、ということではなく…ただ、純粋な周平の母に対する愛があった事だけは事実として印象に残りました。
母にも、周りにも嘘をつかなかった少年が、母へ向けた愛の為だけに「最初で最後の嘘」をついたシーンで、思わず涙が溢れてしまいました。
躊躇いながらも母に対して、少しだけ反抗したシーンも忘れられません。
素直で、妹思いで、学習意欲も高く、そのうえ母が大好きだった少年が嘘をついた瞬間の表情には、胸を締め付けられました。
俳優さんが素晴らしかったですね…。
私ならどうしてあげられただろう…とか、私だったらこんなことができるだろうか…とか色んなことを考えさせられる作品です。
普通なら「子供には不可能」だと分かることであっても、他人の子になってしまうと日本人特有の「トラブルに巻き込まれたくない」という態度が映されてると言いますか…「大丈夫だよな?」って、子供に言ってるように見せかけて、実は自分自身に言い聞かせてるようにも捉える事も出来たり。
母は、こうでなくてはいけない!というルールはどこにもないし、もちろん子供の育て方は産んだ母が決めてもいいことではあると思います。
ただ、母の身勝手な行動や判断だけで、子を苦しめるのはまた違うかな…と思ってしまいました。
やり場のない気持ちだけがモヤッと残りました。
少年が、「外にいたくないんですよね」とラストに言いますが、その理由が「ご飯も食べられるし、本だって読める」でした。
これは…母が、いかに子のことを考えずに育ててきたか、悲惨さが目に見えて分かる描写です。
塀の中にいることが、彼にとって一番気を楽にして生きられる場所なのかな…とも考えてしまいました。
ただ、最後まで妹を心配する少年は、「兄」としての模範になりますね。
物語の流れが重く、たびたび胸が締め付けられる衝動と、今すぐにでも助けたいと思うような作品でした。
犯罪を犯すのは、悪いことであるのは当たり前です。
ただ、全員ではなく一部にこの少年のような子がいることを考えると、「日本」自体を変えないといけないような気もします。
他人に無関心な国だからこそ、起こりうる罪の形です。
私は、無関心な人間でありたくない… でも何が出来るのだろうか…と考え込んでしまうような映画でした。
少年は、本当に不幸の中の不幸で生きてきたんですね…。考えるだけでつらくなります。
子は都合のいい道具じゃありません…。
若くして子供を授かった夫婦や、難のある生活を強いられている親子、子に虐待をしている親などに、こういった作品を観てもらいたいものです。