「母親の描写に深みがなく残念」MOTHER マザー ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
母親の描写に深みがなく残念
いわゆる毒親と、親子の共依存を延々と描写する作品。貧困家族を描く話として(実に荒い括りだとは思うが)引き合いに出されがちな「万引き家族」とは本質的に異なると感じた。「万引き家族」の登場人物には、あのような生活に陥らざるを得なかった悲哀を感じたが、本作の秋子はただの自己中心的な人間で、もっぱら本人の刹那的な行動により貧困が引き寄せられている。
強いて物語のテーマを探すとすれば、実際の事件の裁判で裁判官が母親の姉に問うた「周りにこれだけ大人がいながら何故助けられなかったのか」だろうか。あるいは、秋子のような人物が生まれた社会の病理がどうとかいうことだろうか。
周囲の大人は助けようとしなかったわけではない。周平に差し伸べられた手はあったが、秋子がことごとく薙ぎ払ったのだと作品を見る限りでは思えた。踏み込み方が甘いと感じる面もあるにはあったが、あれ以上介入すれば親側の人権問題がどうこうという話になるのだろう。
また、秋子の生い立ちがほとんど語られず、彼女の行動の原点が暗示されないまま毒親ぶりの描写が続くため、見ていて嫌悪感が先に立ち、問題が秋子の個人的資質に矮小化され、そこから何か他人事ではない問題に思いを馳せることはなかった。
実話ベースである点はすごいので、ひどい女がいたもんだ怖いねえ、という感想である。
それにしても、ベースになった事件はたった6年前の出来事だ。殺人を犯した息子は今も刑務所だが、母親はごく最近出所しているはずだ。収監中に彼女を取材した記事等を見たが、殺人を息子一人のせいにし、取材の見返りを細々指定して要求する等、とても反省しているとは思えない。息子は、彼女が出所したら妹に売春させて金を得ようとするのではと心配していたという。
この女を美しい長澤まさみに演じさせ、キャッチコピーに「聖母」を持ち出すのは、非常に軽薄な判断に思えた。元々長澤まさみの演技は好きだし、今回の熱演(もっぱら金切り声で突然叫んだり掴みかかって暴れたりすることでエキセントリックさを表現するのは安直だと思うが、これは監督側の問題だ)にも賛辞を送りたい。しかし、作品に「MOTHER」と命名しながら母親の行動の原点を掘り下げないのはどうなのか。
もっと息子一人にスポットが当たる形で描いてもよかった。中途半端な印象。