劇場公開日 2020年8月14日

「思い切って青春をテーマにした癖に中途半端な出来」弱虫ペダル もへもへさんの映画レビュー(感想・評価)

1.0思い切って青春をテーマにした癖に中途半端な出来

2020年8月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

面白かったか面白くなかったかで言えば、全然面白くなかったです。
ただ、私は映画で書かれた内容について原作アニメドラマ舞台で計10回以上見たことがあるので、原作を意識して比較しすぎてしまったのが、映画を楽しむ上で邪魔をしてしまったのかもしれません。完全にフラットな視点で鑑賞するのは叶わなかったのですが、それを踏まえて、個人的にどこが足りなかったのか分析してみようと思います。

2時間という短い尺の中で物語を作る以上、原作との違いが出るのは仕方がないと思います。青八木、手嶋、箱根学園、京都伏見の話を全て省いたのは、潔い決断だったとも思いました。そのために、インターハイ予選というオリジナルの舞台(厳密には原作にも登場しますが)をクライマックスに設定するのも、なかなか考えられた改変だと思いました。

尺の縛りとは外れた部分で、原作と逸れたように感じる理由としては、作品のテーマにおいて「小野田坂道の青春ドラマ」に焦点が絞られていたからでしょう。
タイトルロゴがゴシック体から明朝体に変えられたところから見ても、監督が🚴‍♀️弱虫ペダル🚴‍♀️ではなく、✨弱虫ペダル✨を描きたかったのは間違いないと思います。
弱虫ペダルには、小野田坂道が人間関係を築きあげ、自分の居場所を手に入れるというのが縦軸の一つにありますし、映画としてもアイドル俳優ものとしても、相応しいテーマに感じます。
漫画の映画化の目的には、まず面白いものを作ることに加えて、俳優ファンなど普段漫画を読まない人の入り口になること一つが含まれていると思いますから、青春ドラマとして仕上げることは、なかなかキャッチーなテーマを設定できていると言えると思います。

ただ、自転車ものに初めて触れる人にとっては、とても親切とは言えない脚本でした。
「ハイケイデンスクライム」「スプリンター」「ケイデンス」「フロントディレイラー」などの用語の解説は一切ありませんでした。台詞を使いすぎる誇張表現を避けたかったのかもしれませんが、専門用語を説明せずに「なんかすごいこと言ってるな」で終わらせるのは観客を楽しませる上では悪手に感じました。他にも、自転車がどれだけハードなものなのか、平坦と山道の走る時の体力の違い、集団で固まって走る意味など、もっとちゃんと自転車について解説を加えることが必要に感じました。
弱虫ペダルは、作者が自転車の楽しみを読者に伝えたいという思いで描かれています。小野田坂道の青春にスポットを当てるとしても、観客が小野田坂道と同じくらい自転車のことを好きにならないと説得力は生まれないと思います。
レースのシーンは迫力ある画が撮れていましたし、自転車ものを地味な映像にすることなく完成させられていたために、そこが勿体なく感じました。

他については後述しますが、やはり弱虫ペダルのスポーツ漫画としての面白さを十分に発揮できていませんでした。代わりに、小野田坂道が居場所を作っていくことが輝いた演出をされていて、原作に比べて青春の輝かしい表現がされていました。

多くのキャラクターの容姿がリアリティのあるものへと修正されたのも、観客に対して等身大の青春ものを描こうとする意識があったからではないかと考えられます。
容姿だけでなく、キャラ自身の性格も、多少現実感を持たせるものになっていました。特に巻島は、「ショ」をより自然に感じるように、立ち振る舞いや他の口調などを上手く改変されていました。キャラクターの派手な存在感を抑えた上でしっかり魅力を伝えることはできていたと思います。

しかし、最も重要な主人公と、やけに登場回数の増えたヒロインの掘り下げが少なく、教師やパリピの民度も上げられたために、主人公の“友達がいない”という問題に感情移入しにくくなっていました。
クライマックスも今泉に焦点を当てたせいで折角の「小野田坂道の物語」というテーマ性も伝わり難くなっていたように感じます。他のキャラクターの描写のバランスと、メインのテーマが噛み合っていなくて、何が伝えたかったのかわかりにくい作品になってしまっていたように感じます。

弱虫ペダルのファンとしては自転車の表現に物足りなさを感じ、初めて弱虫ペダルに触れる人には入り込み難く、映画単体で見てもテーマと本筋が一本の線になっていない、どれに対しても微妙な判断しか下せない作品でした。

映像は美しく、レースの表現にも迫力があり、俳優の演技も気になる点はありませんでした。前向きな終わり方も綺麗で、観賞後に不快な感情が残ることはありませんでした。
ただ、もう少し、弱虫ペダルという作品に向き合ってほしかったなと思います。

弱虫ペダルはこれまでどのメディアミックスでも面白い作品を残せてきたので、これが初の汚点なのではないかと感じ、ちょっと感動しました。

以下は個人的な感想です。口が悪いので、ご注意下さい。

・冒頭が不快
ンンン〜ンン〜・ンンン〜から始まって嬉しい観客がいるか?

・橋本環奈に甘えすぎ
女優自身の演技力、存在力に甘えて脚本そのもので寒崎幹の活躍を描くことを省いた結果、中身も個性も無いヒロインになってしまっていた。せめて自転車のオタクであることくらい描いても良かったと思う。綾ちゃんもただの橋本環奈の飾りになってしまっていた。

・鳴子 最高!

・巻島と小野田が陽だまりフワフワコンビとして書かれてて良かった
他の2組との比較で、端的に二人を表すことができていたと思う。まあ小野田の巻島に対する心理的変化はまるで描けて無かったけど。

・温泉 最高!♨️

・キャラクターの掘り下げが少なく、レースに熱中できない
キャラクターにリアリティを感じさせるのは上手かったけど、自転車に向き合うエピソードが全く何一つ入っていなかったために応援したい気持ちにさせられなかった。
個性どころか性格すらわからず、何のために生まれたのかよくわからない虹色サングラス工藤さん可哀想だった。

・アイドル俳優 歌下手
本当にそのアニメ好きなの?と言ってしまいそうな微妙なアカペラ 歌唱力もっと発揮してくれよ

・モブ演出不足
レーサーだけでなく、周囲のモブの反応(例:小野田が坂道を歌い笑いながら登ることへの畏怖など)も特にセリフに起こすことなく「なんで~」「どうして~」だけで済ませている。弱虫ペダルのレースで一番気持ち良いところなので、もう少しボリュームが欲しかった。ギャルだけ一生懸命出すのもよくわからん

・小野田の顔怖い
これはすごく良いと思った。狙ってやったのかはわからないけど、すごくキモ怖くて御堂筋のような妖怪ペダルが出来ていた。狙ってやったのかはわからないけど。

・脚本が雑
今泉の「なんでお前は走るのか」という問いに対して小野田が「みんながいるからここにいる」と答えるシーン。コンセプトを伝える上で主旨は間違っていないけれど明らかに会話が噛み合ってない。寒崎さんがサドルを上げるシーンの描写、前後しか書かれなかったのは流石に説明不足とかで済ませていい問題じゃない。別に登りで歌ってたわけじゃないのにゴールで「ヒメエエ!」するのもよくわかんなかった。

・中途半端な原作引用
これは漫画の映画化によくあることではあるのだけど、原作の台詞を主旨が全く違うところで引用するのやめてほしかった。「3分あれば追いつくショ」巻島が追いかけるんじゃねえのかよ

もへもへ
ひまわりさんのコメント
2020年9月30日

共感する所が多々ありました!
丁寧にありがとうございます^^
弱ペダ原作が最高なだけに、ちょっと残念な部分もみられましたね(・・;)

ひまわり
すーさんのコメント
2020年8月26日

おっしゃるポイントがその通りすぎてウンウンと頷いておりました。
ただそれがあってもなお、自分は評価できるポイントがありました。
実写映画化は大変ですね。

すー
はなさんのコメント
2020年8月19日

専門用語についてはケイデンスやスプリンターなどの用語が自転車競技の経験がない人でもわかるようにYouTubeなどで解説動画があがっていたので、それを見た上で映画を見ると割と理解できましたよー。

はな