弱虫ペダル : インタビュー
永瀬廉「弱虫ペダル」で超えてみせた“己の限界” 過酷な自転車レースに宿る熱と疾走感
自転車競技に熱中する高校生たちの青春を描く「弱虫ペダル」が、8月14日から全国公開となる。総北高校自転車競技部に入部し、選手としての才能を開花させていく主人公・小野田坂道を演じたのは、本作が主演映画2作目となる人気アイドルグループ「King & Prince」の永瀬廉。役づくりや過酷な撮影の日々にまつわる話からは、負けず嫌いで、何度も限界を超えてみせたストイックな一面が垣間見えた。(取材・文/編集部)
原作は累計発行部数2500万部を突破した、渡辺航氏によるスポーツ青春漫画。アニメ、劇場版アニメ、舞台、小説、ドラマなど、様々な形でメディアミックスされてきた大人気コンテンツだ。小説を映画化した前作「うちの執事が言うことには」に続き、原作のある作品にはプレッシャーがつきものだが、どのように役づくりを進めたのだろうか。
「原作ファンの方がたくさんいらっしゃって、その上での実写化ですから、原作ファンの方々を大切にしながら取り組んでいきたいと思いました。1番分かりやすく坂道くんに近付くために、外見を寄せて、それから漫画やアニメを見て、キャラクターを自分の中でかみくだいていきました。不可欠な部分は残しつつ、三木(康一郎)監督からは『自分が思う小野田坂道を演じてほしい』と言われたので、僕の解釈した“小野田坂道”を演じています。作品に対しては、レースの熱や疾走感を失わせたくないという思いがありました。でも、自転車に乗りながらお芝居をするなんて、なかなかありません。本当に、現場に行かないといろいろなことが分からない状況ではありました」
その言葉通り、原作の坂道がそのまま抜け出してきたかのような、「黒髪&オン眉&丸眼鏡」ビジュアルには大きな反響が寄せられた。“坂道スタイル”の自分を初めて鏡で見た時の感想を、「『初めまして、誰?』という感覚でしたね(笑)」と照れ臭そうに明かす。
坂道はもともと、地元・千葉から秋葉原までママチャリで往復するほどのアニメ好き。友達がおらず内気な性格だったが、同級生で総北高校期待の新エースである今泉俊輔(伊藤健太郎)や、関西出身の“浪速のスピードマン”こと鳴子章吉(坂東龍汰)らと出会い、初心者ながら自転車競技部に入部することになる。“激坂”を驚異のスピードで登る身体能力の高さに加え、初めてできた仲間と一緒に走りたいという思いの強さにより急成長を遂げ、チームメンバーたちの心を動かしていく。誰よりも仲間を思いやる坂道を演じた永瀬は、撮影の中でチームワークを感じたエピソードを語る。
「海岸で、隊列を組みながら何キロも走るカットがありました。自転車の間隔をできるだけ狭めながら、同じスピードで走らないといけませんでした。1番前の人のスピードに合わせて、後ろの人たちの体力も見ながら調整していく……という状況で、かなり苦労しました。でも、『チーム総北』みんなで支え合い、協力し合いながら走ったので、大変でしたがとても楽しかったです」
なかでも、仲間である今泉に扮した伊藤健太郎からは大いに刺激を受けたようだ。
「健太郎くんとは、仲良くなりました。クールな印象は変わらなかったのですが、ボケたり突っ込んできてくれたりするので、とても親しみやすかったです。でも、裏ではライバルだったのかなとも思いますね。健太郎くんや他の同世代の俳優さんたちとお芝居できることは、嬉しいと同時に『負けていられない』という気持ちになります。自分の芝居の強みは、正直まだ探っているところですが、とりあえず現場を楽しんでいましたね。その部分は、負けていなかった気がします。現場を楽しむことで良いお芝居ができるという思いがありますので」
そして、坂道になるために不可欠な要素・自転車練習に取り組んだ日々についても語ってくれた。「ロードレーサーは、(今まで自分が乗ってきた自転車とは)違う乗り物かというくらい、新しい感覚になりました。舞台期間中は週に3回くらいで、休演日には河川敷を走って練習していました」と、ストイックに練習に励んだようだ。
劇中では、今泉が坂道に勝負を申しこみ実現した「裏門坂レース」に始まり、新入部員たちが火花を散らす「1年生ウェルカムレース」、初めての公式戦となる「インターハイ予選」など、様々なレースが繰り広げられ、限界を超える瞬間がいくつもある。ようやく居場所を見つけた坂道や、過去のトラウマを抱える今泉は、目の前にある坂にがむしゃらに挑みながら、胸の内に秘めた壁を越えようとしているようにも見える。それは、彼らを全力で演じたキャスト陣も同様だ。
「レースシーンでは1回抜かれて、また追いつくのがすごく大変でした。常に自分の持っているすべてを出して走っているので、その中で抜かれたら『もう抜き返せないな』と心が折れそうになるんですよ。それを乗り越えて、自分に鞭打って、もう1回抜き返すのが1番辛かったですね」
撮影では自転車に乗っている様子を様々な角度からとらえるため、芝居をしながら己の限界を何度も突破することになる。並大抵のことではない。しかし、負けず嫌いな永瀬はテスト走行したプロに「俳優が走るには無理じゃないか」と言わしめた坂にも果敢に挑戦。疲れ果てながらも、何度も「もう1回やらせてください」と頼みこみ、納得のいく走りを追求した。登り坂でその真価を発揮する坂道を演じるには、圧倒的なスピードで次々と他の自転車を抜き去っていかなければならない。永瀬は、誰よりも速く駆け抜けていく坂道の姿を、軽やかにスクリーンに焼きつけてみせた。「皆がそのカットで全力を出しきって撮っているので、熱量もあるし、疾走感もある。自転車シーンには、手ごたえがあります」と自信をのぞかせるように、そこには芝居を超えた本物の“熱”が宿っているはずだ。
「弱虫ペダル」は、8月14日から全国で公開される。