「強さ…弱さ…儚さ…自分らしさ…」エルヴィス Masuzohさんの映画レビュー(感想・評価)
強さ…弱さ…儚さ…自分らしさ…
ロックンロール
1950年代にアメリカに起こった
大衆音楽ジャンル
白人のカントリー・黒人のブルース
はたまた霊歌が合わさり
演者も客も激しくアクションして
盛り上がるスタイルの曲調を
広くそう呼ぶようになった
そんな近代にも受け継がれる
一大ジャンルを広めた
エルヴィス・プレスリーの
自伝映画
感想としては
これまで様々なアーティスト
をテーマにして作られた
伝記映画として見ても
成功と転落や不慮の死
といったイベントを傍らの
味方だったのか敵だったのか
ハッキリしないクズマネージャー
からたどるという手法は
なかなか斬新で面白かったです
映画も心臓発作で倒れる
おっさんの走馬灯のような回想
から始まるというなかなか
変わったものでした
1950年代
金銭トラブルで父親が投獄される
など不遇な少年時代を送ったエルヴィス
黒人の町メンフィスで黒人音楽に触れ
天啓を授かるように身につけた
歌手の才能は一気に花開き
トラック運転手から一転
中小レーベルから出したレコード
がヒットし注目を集める中
興行師だった「大佐」トム・パーカー
の目に留まります
そのエルヴィスの
下半身を激しく震わせる
歌唱スタイルは女性を興奮させ
ステージに夢中にさせるこれまでに
なかったもの
「大佐」も一気に魅せられてしまい
エルヴィスと組んで成功をつかむ為の
道を一緒に歩みます
さてこの大佐ですが
音楽に関してはさっぱりわからず
ギャンブル好きで金に汚い
ハッキリ言ってクズなのですが
興行師としては有能なのか
マネジメントからグッズ展開
まで一気に取り付けます
しかし黒人音楽ベースの
スタイルで女性を虜にする
斬新なスタイルは当時のアメリカの
差別主義者に危険視され
厳しく監視されてしまいます
大佐はおとなしく演奏する
しょーもないスタイルを
強要しますが
エルヴィスは悩みつつも
やりたいようにやれよという
友人BBキングらの激励もあり
激しいスタイルに戻した結果
投獄か兵役かという選択を
迫られ兵役に行くことに
なります
その結果大変愛していた
母親が不安から酒浸りになり
亡くなってしまうと失意の
エルヴィスはより大佐を
頼ることになってしまいます
こうしてエルヴィス本人や
その家族が歌うこと以外まるで
出来ないド素人であったことが
後々に響いてくるのです
エルヴィスは兵役先で
奥さんも見つけ子供にも恵まれ
なんだかんだ復員後は大佐の
取ってきた仕事でもある
映画俳優としてやっていく
事になりますがパッとせず
大佐のやり方にも不満を覚え
公民権運動に理解を示す白人
政治家や黒人の偉人が暗殺されていく
世の中に心を痛めるうち
また歌手活動に戻っていきます
キャリアの中で浮沈を繰り返す
あたりも大佐任せのマネジメント
であった事が影響したのでしょう
ギャンブル好きの大佐が
取ってきた仕事でエルヴィスに無断で
楽曲の権利も借金のカタに
売ってしまうなどドクズを
極めていたようです
でも大佐はステージで全身全霊を
注いで歌うエルヴィスに魅せられ
涙するといったあたり
なんとも複雑な関係です
ただエルヴィス自身は人柄もよく
周囲の人々もなぜ大佐の言いなりに
なっているのかについては首を
かしげていたようでもっと
好きなようにやろうと
本人も望んでいた全世界ツアー
をやろうとすると
デタラメな経歴でアメリカ永住権を
持たないのでいったん国外に出ると
再入国できなくなることを恐れた
大佐はそれを阻止し
最終的にはラスベガスでの
ロングラン公演に注力することに
なってしまいます
それでもステージで脚光と
自分への愛を受け止める
快感に囚われたエルヴィスは
薬漬けになっていきその身を
蝕み家族も離れていきます
それでも大佐と決別できない
これくらいエルヴィスは
人々を感動させるよう
歌う事しか知らないという
ある種神秘性を感じます
大佐も世界中に公演するという
点に関しては同時衛星生中継を
1973年時点で実施したり
興行師の才能はそれなりに
あったのでしょうね
(衛星中継自体は1963年の
ケネディ大統領暗殺報道が
最初らしいですけどね)
スターとマネージャーの関係
というのは誰しも完全にうまく
やれているわけではない
難しさを感じるところも
あります
エルヴィスは結局42歳の若さで
薬物中毒から心臓発作で突然死
してしまいますが
結果的にそれによって永遠の
存在となり今でもロックスターの
象徴的存在として残っている
のは果たして良かったのか
観るものに問いかけます
いまだに人種差別やポリコレ
などの問題悩まされるアメリカ
ですがより厳しい時代であっても
そんな概念も全く持たずただ
歌によって世界に影響を与え続けた
エルヴィス・プレスリーの先見性や
生まれる時代が早かったのかと
思わせられる作品でした
改めて聞くその歌声は
力強く儚く何より優しい…