「暴力が芸術となる瞬間」THE BATMAN ザ・バットマン 終焉怪獣さんの映画レビュー(感想・評価)
暴力が芸術となる瞬間
2022年3月3日 新潟県長岡市 Tジョイ長岡にて
特別試写会に当選し、一足先に鑑賞させて頂きました。
私は原作であるバットマンの造詣は深くはありませんが、幼少期にティム・バートン監督作品、ジョエル・シュマッカー監督作品を観てきました。
そして多くの方同様にノーラン監督のダークナイト三部作に衝撃を受けた世代です。
その後にもレゴバットマンやジョーカー、ジャスティス・リーグ(スナイダーカット版も)等、関連作品を観てきました。
映像作品特化の為、今作のメインヴィランである「リドラー」について全く知識が無い状態で観賞。
本当に圧巻の一言です。
私は芸術性を感じる映画に思えました。
バットマンはMARVEL、DCのアメコミヒーローに於いて最も現代へのメッセージ性を主張出来る稀有な存在。
日本人で云う所のゴジラに近い立ち位置なのかも知れない。
今作もまた単なる社会風刺の枠を超え、人間の本性を問う重いテーマを持っています。
私的に良かった点と悪かった点を。
【良かった点】
○ロバート・パティンソンの演技
トワイライトシリーズや直近だとTENETでの熱演が、記憶に新しいロバート・パティンソン。
今作はバットマンとして活躍を始めて二年目のブルース・ウェインを演じる。
まだ未熟さ故に暴走しがちな危険なブルースを見事に表現していたと思います。
○マイケル・ジアッチーノによる音楽
劇中を彩る音楽は、場面と見事にマッチしており、いずれも精神を不安にさせる。
より緊張感が増し、観客の感情を揺さぶる素晴らしい音楽でした。
○SEの美しさ
BGMだけではなく、SEも素晴らしかった。
ヒーロー、ヴィランが着用するマスク。
今作でもリドラーが独特なマスクで会話をするが、声がくぐもる。
しかしその声が、また美しさを醸し出している。
バットモービルの爆音だったり、バットマンのスーツの衣擦れだったり、戦闘時における打撃音等々、静的な作品である本作にとってこれらのSEは、作品の品質を高めるのに一役買っている。
特にリドラーが被害者の顔を覆う際のテープの引き出し音が堪らない。
これだけでリドラーの異常性を感じる事が出来る。
○アクション
兎に角、地味である。
が、一つ一つの所作に説得力がある力強いアクションだった。
閉鎖空間や足場が不安な場所等、空間を把握した戦闘に感服。
暗い一方通行の通路にてサブマシンガンを弾きつつ、敵を殴るシーンは美しい。
そしてバットマンの異常性を強調する暴力性を重視した殴打は凄い...
一発一発の拳に恐怖を感じます。
○暴力を芸術性に昇華している
私は暴力は嫌いです。
好きな人の方が少ないと思いますが...
現実では嫌悪する暴力も映画の中では、
芸術と錯覚する程、美しいと思う瞬間がある。
本作のバットマンの暴力が、正にそれだと思う。
○ノイズの美しさ
イタリアの未来派宣言をしたルイジ・ルッソロは、機械や電気の不協和音とも取れるノイズに芸術性を見出した。
そして現代、ノイズの多彩さに心惹かれる者は多い。
この作品でもノイズが作品の美しさ、不気味さに大いに貢献している。
バットマンの映像モニターや、リドラーのSNSに投稿した動画等、ノイズ混じりの映像が印象的だ。
映像は美しければ良いと云う訳ではない。
こうした映像の荒さを表現する事も作品には不可欠なのだと再認識させてくれる。
○リドラーのキャラクター性
バットマンのヴィランと云えば相手の心理を揺さぶる知能犯が多いですが、ポール・ダノ演じるリドラーもなかなか曲者で好きになりました。
犯行時は素人のように相手を殺害し、SNSでは情緒不安定な言動でその異常性を見事に表現していたと思います。
余談ですが、コリン・ファレル演じるペンギンが両手両足に手錠をされてペンギン歩きするシーンにクスリ。
○バットマンとしての意義
クライマックスにて発煙筒の光で人々を導くバットマンの姿に泣きそうになりました。
傍から見たら独善的な犯罪者とも見て取れるバットマン。
しかしダークナイト同様にこれからゴッサムを導いていく存在を示唆するあのシーンは、ベタながらも好きです。
○リドラーの独房の隣に居たのは...
あの特徴的な笑い声は...
続編があれば彼がヴィランとして立ち塞がるのか?
リドラーは、彼の謎々に「友達」と答えましたが、私はトランプゲームを連想していたので「ジョーカー」だと思いました。
【悪い点】
○偉大な過去作品の二番煎じ
人によっては、ダークナイトやジョーカーの二番煎じとも見て取れる作風になっているように思えます。
ダークナイト程、ブルースの葛藤が描かれている訳でもなく、
ジョーカー程、貧困の焦燥感や怒りを描いている訳でもない。
過去作品の良い所取りをしたが、全てが中途半端になってしまった印象です。
○リドラーの謎解きと動機が弱い
今作はバットマンを探偵とし、リドラーの謎を解いていくミステリー仕立ての作品になっています。
が、観客に解かせるつもりのない謎ばかりで観客が考える前に解決して行きます。
よってミステリーとしては、余り成立していない。
そしてリドラーの動機。
リドラーの正体を謎解きの過程で描いていますが、それだけではリドラーに感情移入出来ません。
ホアキン・フェニックスのジョーカーが如何に凄かった改めて理解した。
○構成に難あり
物語の方向性は充分に理解出来ますが、劇中に於いてバットマンやゴードンの行動に変化がなく、似たような行動を繰り返す場面がチラホラ。
監督も観客に見せたい映像を優先し、無理矢理、整合性を取ったような構成が見受けられました。
【総評】
私個人としては好きな作品です。
しかしダークナイトやジョーカーの存在感が強すぎる為、偉大な過去作品に似せ過ぎた点が、低評価を下す人を増やすと思います。
雰囲気だけで中身が伴っていないと云う意見も出るかもしれません。
しかしこのロバート・パティンソン版をこの一作で終わらすのは勿体ない。
部分的に芸術性が高い場面もあるので是非とも続編を。
色々と低評価、高評価と二分する作品ですが、
バットマンにしか描けないテーマがある。
この作品は良くも悪くもそれを示した。
繰り返しになりますが、私はこの作品が好きです。
しかし嫌いな人の気持ちも理解出来ます。
しかしいつだって人間の本性を描くバットマンが好きだ。
善人だろうと悪人だろうと人間。
誰しもが高潔な精神を持ち、誰しもが不正を働く。
ゴッサムは世界の縮図であり、
バットマンは人間の精神の在り方なのだ。