「ニルヴァーナのSomething In The Wayが流れた時点で、この世界観に堕ちていた」THE BATMAN ザ・バットマン REXさんの映画レビュー(感想・評価)
ニルヴァーナのSomething In The Wayが流れた時点で、この世界観に堕ちていた
ニルヴァーナどはまり世代としては、不穏な雰囲気たっぷりの冒頭でSomething In The Wayが流れた時点で、もう70点近く点をあげたい気持ちになってしまった。
ロバート・パティンソン演じるバットマンは、ノーラン版とは違う「痛々しさ」がある。青春時代に衝動的に自殺してしまいそうな危うい儚さを持っていて、観ていて冷や冷やするし、かなり共感してしまう。
もう私の目には、この世に絶望しつつもどこか優しさを湛えたカート・コバーンが乗り移ったようにしか見えず、かなり心をえぐられた。彼が自殺したときの、あのときの衝撃を思いだしてしまうのだ。
それにしてもペンギンといい(本当にコリン・ファレルなの?)、ファルコーネといい、今回のヴィランには一筋縄ではいかない複雑さや深みがある。例えていうならゴッドファーザーのギャングたちのような人間味と重厚感。
リドラーも、ジム・キャリーが演じていた人物像とはだいぶ違う。
同じ孤児であるウェインに寄せる嫉妬と妬み、そして同じ復讐者としての期待。
しかしリドラーとは一線を画し、闇堕ちせず復讐はなにも生まないと悟るウェイン。
格差社会が叫ばれる今、映画【ジョーカー】のように「生まれながらに不公平」である社会への強烈な破壊願望は誰が抱いたとしても不思議ではなく、市井の人々がテロリストやヴィランに変貌する可能性もある。今後のヒーローものも、このような「社会への喪失感」という溝をどう埋めていくのか、がテーマになっていくのだろうか。
それにしてもキャットウーマンとの情感たっぷりの間は、悶えるような切なさ。
二人が引かれあうことに余計な理由がないことが、よりリアルな感じがした。二人の間に流れる「行間」は、一部の隙もないノーラン版とは違い、よりバットマンの孤独を際だたせる。
ただ、ラスト、誘導灯を持って人々を先導したり担架に載せて働く姿は、ヒーローというより普通の人に寄りすぎていて、やや拍子抜けした部分はある。
その点では至高のダークヒーローとして昇華した完璧なプロットのダークナイトに軍配あげたくなるものの、クリスチャン・ベール演じる硬質なウェインより、パティンソンのウェインをもっと観たいと思ってしまう自分もいた。
この映画が暗いくらいという人もいるが、バブルがはじけて不公平感が顕わになった時代を目の当たりにしてきた世代にとっては、この暗さこそリアルであり、その暗さの中でも人を信じたいとあがくウェインを愛おしくさえ思ってしまうのだ。