「社会の病理を映すダークヒーロー物の最先端」THE BATMAN ザ・バットマン ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
社会の病理を映すダークヒーロー物の最先端
シリーズはノーラン三部作しか観ていない。今回は3時間という長尺が不安だったものの、ロバート・パティンソン目当てで観に行った。
いや、とっても面白かった。見たい世界をしっかり見せてもらえた感じがする。
殺伐としたゴッサムシティ、ジョーカーを彷彿とさせる白塗りメイクの集団。セクシーで意思も戦闘も強いキャットウーマン(とかわいい飼い猫たち)、迫力のアクションとバットモービルのカーチェイス、一筋縄ではいかないヴィラン。シリアスなトーンで通された中、まだ滑空し慣れてないバットマンの姿はちょっと愛嬌があった。
「TENET」ではどこか気のいいお兄さんの風情を漂わせていたパティンソンの瞳が、見事に復讐の情念がにじむ暗い輝きを宿していて、マスクを着けていてもそれが伝わってきた。鑑賞歴のせいでクリスチャン・ベールのイメージが足を引っ張らないか少し不安だったが、絶妙な塩梅でイメージが更新されていて、残念な違和感は皆無だった。
バットマンの世界では、権力側の腐敗が繰り返し描かれる。そこにはびこる悪を、やんごとない出自の主人公が人知れず討つ。ラストで希望が見えても、ゴッサムシティの治安がよくなる世界線はない。
これは荒く括れば日本の時代劇の様式にも通じる気がする。悪代官がいて越後屋がいて(これはほんの一例だが)、お主も悪よのうとかやってると、必殺仕事人とか桃太郎侍(古すぎる)みたいなのが夜中にやってくる。見得や殺陣で盛り上がった末に悪人は始末されるが、そのイベントは次の話に影響を及ぼさない。
どちらにおいても肝となるのは、悪の姿が現実の権力腐敗や社会悪を反映していることだ。時代の移り変わりで悪の生態は変わり、根絶やしになることはないから、こういう物語はネタが尽きない鉄板の構図だ。ただし、情報化社会で価値観の多様さが見えやすくなった現代では、ステレオタイプのヴィランは既にリアリティを失っているのかも知れない。
本作のヴィランであるリドラーは、ブルースの父トーマスの基金で再建されるはずだった孤児院の出身で、トーマスがファルコーネに頼った末に基金の金が腐敗した権力者の食い物になったことを恨んでいる。
従来のいかにも悪人らしいキャラクターではなく、社会の不条理に人生を踏みにじられた弱い立場の人間が、SNSでコミュニティを形成しながら知能犯的な殺人を重ね、最終的に無差別な殺戮に及ぶ。キャラクターのたたずまいはバットマンに対峙するヴィランとしては迫力に欠けるかも知れないが、あまたいる似た境遇の人間がフォロワーとなり、ゲリラ的に増殖してゆく恐ろしさがある。これは、ジョーカーに追随する集団が現れたのとよく似ている。
見捨てられる弱者、巨額な基金の横領、絶望した人間による無差別殺人……まさに今の時代を感じる要素だ。リドラーの犯行は悪質だが、彼の生い立ちそのものにはリアルな悲劇がある。
そして、トーマスでさえかつて魔がさしたのかファルコーネを頼ろうとした。作中ではアルフレッドが弁明していたが、父親を腐敗と無縁の人間と思っていたブルースの心は揺らいだ。
分かりやすい善対悪の単純な対立ではない、その境目の入り組んで複雑な様相を見て、架空の主人公が想像上の世界で闘う話にも関わらず、見る側は現実が凝縮されたようなリアリティを感じる。これはシリーズの他の作品にも見られる特徴かも知れないが、本作では特にこの傾向を強く感じた。
エンドロールにコリン・ファレル……出てた?と思ったらペンギンだった。そのこてこて特殊メイク、ジャレッド・レトですかあなたは。
ちなみに、エンドロールの後に表示されるURLのサイトでは、先日まで週替わりの”なぞなぞ”が出題されていて、それは”新しい友達”ジョーカーの出現を暗示するものだったそうだ。現在は、作中に出てきた写真をダウンロード出来るようになっている。
ニコさん、返信イイねありがとうございます😊😭。コリン・ファレル、そうでしたかぁ。勉強になります、イヤ心配してパンフレットも確認したのですが、見落としたのか?記載が無くてビックリしていました。現代の特殊メイクすごいですね。あまりにも自然なので、「本人そのもの」と勘違いしておりました。とてもためになる情報ありがとうございます。3時間の長尺に関しては、事前の身構え感が杞憂に終わり、良かったです。
ありがとうございました。今後もよろしくお願いいたします🙇♂️🙇♂️😊