「ビジュアルの更新はしていないがテーマは深化した」マトリックス レザレクションズ 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
ビジュアルの更新はしていないがテーマは深化した
かつて映像表現を更新したシリーズの復活ということで、第一の興味は新たなビジュアルイメージを創出可能かという点だった。この点については、少し残念だ。かつて『マトリックス』が生み出した表現は、今やハリウッドに限らず、当たり前のものになった。当たり前を作ったからすごいのだが、それを自ら更新することは、やはり至難の業なのだろう。
しかし、テーマを深化させることには成功している。前シリーズは、仮想世界と知らずに生活していたトーマス・アンダーソンが救世主ネオとなって、機械に支配される人間を解放に導くという物語だった。現実には人間の文明は滅んでおり、地獄のような様相だった。機械の支配から逃れても、そもそも人類に明日はあるのか怪しいほどにディストピアだった。一方、仮想世界の中は楽しそうなのだ。それでも、そこから人は機械の支配から自由になるべきと説いたのが前3部作だとすれば、今回は仮想世界の中で上手く生きていくにはどうすべきかを説いている。現実の方が無条件に大事だと言い切れない時代になっている。と言うより、多くの人が仮想世界に生きることを選べば、もはやそれが現実の世界になってしまうのではないか。むしろこの結論の方がこのシリーズにはふさわしい。バレットタイムなど、数々の斬新なイメージは、そこが仮想世界だからこそ実現できた表現なのだから。
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