「女性と多様性に対する現実世界への皮肉」マトリックス レザレクションズ Dポッターさんの映画レビュー(感想・評価)
女性と多様性に対する現実世界への皮肉
アクションシーンに『マトリックス』の斬新さを期待して観に行くとコレジャナイ感にやられるでしょう。
一方で、『マトリックス』とはそもそも何か?という視点で観るとこの作品は旧3部作の上に成り立つ新しい『新しいマトリックス』という事になると思う。
『マトリックス』→『マトリックス リローデッド』→『マトリックス レボリューション』を1、2、3と連続した物語でピラミッドの底辺だとすると、『マトリックス リザレクションズ』はバージョン2.1くらいに位置付けられるのだろうかと個人的には想像した。
うーん、まるでエヴァンゲリオンの新劇場版のような…。
機械に支配されたかつての作品から、機械との共存する都市アイオンでの様子は何処か近年語られているAIや再生可能エネルギー普及後の社会を思わせる。
またネオを助けにきた青い髪の女性バックスにはウサギのタトゥが入っている(スポンサーWARNER BROSの兎のキャラクターバックスバニー?)、そして鏡を使っての移動。
船の中などにいる機械生物もそういえば亀?のような形をしているモノも。
これらは明らかに『不思議の国のアリス』からのインスパイアだろう。
青いメガネのカウンセラーは何処かMicrosoftの創業者の1人、ビル・ゲイツを彷彿とさせる。
前作までのライバルであるスミスとの共闘、そしてトリニティの奪還と覚醒…ネオではなくトリニティが覚醒という展開は近年の女性の活躍する社会を反映しているのだろうか。
しかし彼女にはこの仮想世界に夫と子供たちがいる可能性も示される。
まるで複数の可能性の一つが本作には詰め込まれているように思える。
エンドロール後に流れるショートムービーでは会議室のような場所の背景には所々、マトリックスの緑の光が溶けて流れている。
そしてメディアに、動画に流されて思考を奪われている多くの人に対する皮肉と黒猫がキーワード(ヒント)である事が語られる。
これを完全な蛇足と捉えるのか。
それとも作中本編の各所に散りばめられたメッセージを解くヒント(鍵、そういえば作中でも鍵屋に逃げ込んだシーンがあった)と考えるかは自由だが、青いカプセル・赤いカプセル、青いメガネ、黒猫、虹色の空など色についての表現がシリーズでかつてないほど語られている。
虹色はLGBTQ+の多様性を認め合うシンボルカラーなど色々と想像が膨らむ。
ではこの作品は結局、我々に何を伝えたかったのだろう。
多様性への理解?可能性の探究?
望みはないと思っていたことでも叶う事があると?
私はメディアや動画配信などの影響力の強い人達が発信する様々な情報に対して疑わず流されている現実世界の人への皮肉(風刺)が根底にあると思う。
エンドロール内に”Dad and Mam”とメッセージまで添えられ、吹替版ではわざわざ和訳された字幕まで出てきた。
マトリックス(母体)に、父と母へ愛についてのメッセージ。
リザレクション(復活)とは、黒猫のように気ままに生きようというメッセージなのか。
それとも女性や多様な性などの生き方をする人々にばかり光があたり男(ネオ)は役割を奪われている事、しかし父と母が愛し合わなければ自分たちは生まれてこなかったという皮肉ではないだろうか。
振り返ると今回のネオは確かにあまりいいところなしに思える。
空を跳ぼうと試みたシーンはギャグ化してしかも飛べないというオチ。
これはまるで今の男性の世の中で置かれている立場みたいだ。
もっとも最終盤では共に空を跳び、ネオとトリニティが手を繋ぐシーンが描かれているので男女どちらかではなく、互いに力を合わせてというメッセージかもしれない。
タイトルも『マトリックス レザレクジョンズ』と複数形。ネオだけでなく、トリニティの復活という意味か。
はたまた観た人の『マトリックス』復活か、『マトリックス』という作品そのものの復活か。
色々な意味を掛け合わせているのかも。
まぁ、個人の感想ですが。