劇場公開日 2021年6月18日

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「こういう作品に疲れてしまった」モータルコンバット 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0こういう作品に疲れてしまった

2021年6月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 ハリウッドのB級映画である。こういう作品は何も考えずに映像と音響を楽しめばいいと思っていたのだが、このところのキナ臭い世の中の風潮を感じるにつけ、なんだか素直に楽しめなくなってしまったことを自覚してきた。
 他者を排除する。そのための最も邪悪な方法が暴力である。暴力は人権蹂躙であり、暴力の果てに行き着く殺人となると、生きる権利さえ奪ってしまうことであり、すべての共同体で禁じられている。
 ちなみにどうして共同体の内部で殺人が禁じられているかというと、殺人によって共同体の構成員が減少することは共同体の存続にマイナスだからである。つまり相対的な理由で殺人が禁じられている訳で、殺人を禁じる絶対的な理由は存在しない。あくまで共同体の都合なのだ。その証拠に、同じ殺人でも戦争で他国の人間を殺せば英雄となる。

 本作品も人間界対魔界という、いわば共同体同士の争いを舞台にしている。魔界を邪悪に描くことで人間界を善、魔界を悪のように印象づけているが、実際はいずれも相手方を殺すのが目的であり、どちらが善も悪もない。戦争を個別の戦闘に分解して見せているだけだ。
 ストーリーは一本道であり、個人的なリベンジ(復讐)も交えつつ、とにかく戦闘場面を描く。真田広之の戦闘場面は見ごたえがあったが、その他の戦闘場面は割と見慣れた感じで驚きはなかった。火と氷と雷はファイナルファンタジーやドラゴンクエストでお馴染みの攻撃魔法のカテゴリだ。真新しさはない。

 世の中は戦いに溢れている。スポーツは本来の気晴らしという意味から大きく離れて、勝敗を争う戦いになってしまった。ビデオゲームの殆どは戦いのゲームである。企業は同業他社との競争だ。受験は昔は受験戦争と呼ばれていた。いじめる者はいじめられる側にならないために戦っている。現に戦争中の国々はもちろん、平穏な日常に思われる日本でも、戦いは沢山あるのだ。そういうことに疲れて死んでしまう者もいる。日本では1日に100人が自殺している。心が強そうに思われる中国人も、年間で30万人が自殺している。

 当方はまだ生きているが、こういう作品に疲れてしまった。どうして戦うのか、なぜ他者を殺さなければならないのか、それは単に共同体の独善的な都合ではないのか、そういった自省的な問いかけをすることなしに、ただ敵を殲滅するために戦うストーリーは、もはや心を敲つことはない。心を敲たない映画は観る価値がない。IMAXレーザーでプレミアム料金を払って鑑賞したが、なんとも無駄な時間に高い金を払ってしまった気分である。

耶馬英彦