「後編の見通し込みで壮大さを楽しみたい」DUNE デューン 砂の惑星 ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
後編の見通し込みで壮大さを楽しみたい
終始、音と映像に圧倒されっぱなしだった。
砂漠の星の雄大な景色、砂の大地の中をゆく小さな人間の姿。トンボのようなオーニソプターや香料を採取するサンドクローラーなど本作の世界観を彩る独特のマシン。ごちゃついた装飾がなく、それでいてアトレイデス家の威厳を感じさせる服飾や荘厳な建築物。どこで止めても絵になりそうなアングルの数々。
見ていて色々と想起される作品はある。スターウォーズ、風の谷のナウシカ、ハルコンネン家は北斗の拳なんかも連想させた。だが、原作込みで見れば本作の方が先んじているのだ。そのことを頭では理解しながらも、原作もリンチ版も見ていない状態で最先端の映像技術を駆使した本作を鑑賞していると、錯視を見ているような不思議な感覚を覚えた。
もちろん、原作が発表された時代にこんな内容を映像化するなんてとても出来なかっただろう。映像技術が、近年になってどうにかやっと半世紀前の想像力に追い付いたのだ。ハンス・ジマーの劇伴も、作品世界の奥行きを豊かにするもので素晴らしかった。
IMAXで映像と音響の圧を体感することを強くお勧めしたい。
物語の設定はシンプルで、対立関係が単純なので意外と取っ付きやすかった。女性の組織ベネ・ゲセリットの説明はちょっと少な過ぎたかも知れない。事前に公式サイトの相関図を見ていたので迷わずに済んだ。
主人公ポールを始めアトレイデス家に次々と困難が降りかかるが、ポールとジェシカの母子コンビがとにかく強い。複数の言語と手話を駆使し、相手を操る「ボイス」を使いこなし、剣術も達者だ。追われ続けて次々と危機に遭遇しても逞しく生き延びる。ティモシー・シャラメとレベッカ・ファーガソンの、理知的で少し憂いのある雰囲気が役によく合っている。
間抜けなキャラが馬鹿なことをしてハラハラさせるような無駄なストレスを呼ぶ場面は皆無。屋敷の警護がちょっと緩い以外は、覚悟が違う人間達がぎりぎりの攻防を繰り広げる。シックな映像美の中に一本ぴんと張った緊張感が心地よい。
ハルコンネン男爵の何かとキモ過ぎる描写も、振り切っていてビジュアル的に分かりやすさに寄与している点でむしろ好感度が高い。
可愛い哺乳類をチラ見せするなど、お弁当の香の物のような定番の緩急もあって楽しい。
前後編の前編にあたる作品だが、今後何が起こるかがポールの予知夢として断片的に挿入されていて、それが後編の予告のような感じになっている。
これから盛り上がるところで終わるような形になっているが、前編の範囲なりのドラマはあるし、壮大な原作を映画1本に無理に詰め込むよりは、スケール感を損なわない作りにしてもらって続編を待つ方が断然いい。
本作1本だと物語としては物足りなさを感じる人もいるかも知れないが、半分のみで評価を確定するのはもったいない予感がする。
圧巻の映像体験と数年後(と期待したい)の後編を待つ楽しみをくれる、まさに大作という呼び名がふさわしい作品。