「芯を強く持たないと生きのびられない女たち」モロッコ、彼女たちの朝 kumiko21さんの映画レビュー(感想・評価)
芯を強く持たないと生きのびられない女たち
期待以上だった。ツンデレ女性がなぜツンデレなのか、甘くない世界であることがよくわかった。一方で、人と人との距離がいろんな意味で近くてごみごみしているのになぜか魅力的なカサブランカの街の風景に目を奪われた。
未婚の妊婦サミアは、手に職もあるのになぜシングルマザーとして生きる決心をしないのだ、なぜ生まれてすぐ我が子を施設に入れようとしているのか、なぜ何食わぬ顔で実家に戻って普通に結婚しようとしているのか、そしてなぜ産み落とした直後の我が子に頑として乳をあげようとしないのか、、、こんな風な常識的な「なぜ」が渦巻いた。それはひとえに私が「事実」を知らない無知ゆえだった。かの国では、未婚女性が子どもを産むことのタブーは想像を絶し、必ずや社会的孤立を生み、主観的に愛したとしても我が子は必ず不幸になるに違い無い、という事実。いくら芯が強くても、社会慣習、社会意識などの環境を変えるほどの団結は遠い。何しろ、女性同士でも立場が違えば露骨に非難しあってしまうのが現実だから。
鑑賞後時間が経ってもじわじわする映画には共通点があると思う。映像の記憶が、空気の記憶、匂いの記憶、温度の記憶、肌感触の記憶につながっていること。印象的なセリフの裏にあるたくさんの意味を反芻してみたくなること。そして、手持ちカメラで捕らえられたアングル、距離、手ブレを通して、もう一人の出演者としての作り手の視点を終始感じられること。
印象に残ったシーン:パン生地をこねる手のアップ、丸いお腹の皮膚のざらつき、フェルメールの構図を思わせる光のあるパン工房、あの彫りの深い顔に施される気合いの内瞼アイライン、、、、いやキリがない。