「キツい」耳をすませば U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
キツい
おそらくジブリの「耳をすませば」を俺は見てない。なので、ほぼほぼ初めましてな状態だ。
で、結構、衝撃的だった。
物語に矛盾があるわけではなく、現実と矛盾があるように感じた。コレはいったいどこの世界の話なんだろうかと…。
物語としては純愛モノなんだろう。主人公2人は一途な愛を貫き、10年の遠距離恋愛を経て結ばれる。
一回も会わなかったのだろうか?そのあたりに言及はしていないのだけど、どうにも雫を見ていると、10年間一度も会っていないように見える。
イタリアと日本なので、それなりに距離は遠い。高校やら就職を経て会えない事に慣れたのかしら…?自分達の夢に辿り着くまで会わないと決めたようではなさそうだ。聖司が持つ2人の写真にも、成長した雫と写っている写真はなかった様に思う。
…そんな状態で10年もの時を過ごせるのだろうか?
恋愛譚でありながら、恋愛の源泉を無視してるかのようで、とてつもなく居心地が悪い。
たしかに、それなりの頻度で会えていたならば、この物語は成り立たなかったのかもしれないが。
そのせいなのか、なんなのか、エラく限定された空間の中で物語は紡がれていった。
松坂氏は流石であった。
チェロを弾きこなし、流暢に英語を扱う。彼が聖司である事になんら疑問は持たないのだけれど…まぁ、清野さん程描かれてもないのだけれど。
違和感が残るのは雫だった。
なんか搾り出してるような感じが凄くする。
ただ、コレは清野さんが原因な訳ではなく「雫」の設定に問題があったように思う。
アレを「ピュア」ってカテゴライズしていいのだろうか?なんかその対極に位置するような気がする。
聖司がラストに送ってきた手紙も非常に不可解だ。
彼の演奏会を見たのかどうかも分からない。
別れを告げたかどうかも描かれていない。
おそらく告げてないんじゃないかと推察する。
でも、有給まで取って現地1泊2日はないんじゃないかと思う。あのまま会わずに帰ったのなら、あんな手紙の内容にはならないだろうし、別れを告げていてもならないと思う。じゃあ帰国するまでの数日は一緒に過ごしたのだろう?その間の雫の違和感に気付かないような聖司じゃないように思う。
まるで、何一つ変化も進歩もないような内容で…一旦はお互い逢瀬を意識したはずなのに、落葉が風にさらわれたかのように消えてなくなってたりする。
もう、物語のそっち方面の起点が隠蔽されてるような感触だ。なんなんだ?文部省はSEXが悪とでも言ったのか?どこへの忖度なんだ?コンビニからエロ本が無くなっても思春期の情欲はなくならないぞ?
体裁を整えて本質は見ないフリか?ありもしない温室を作って満足か?
…話が逸れたが、これも矛盾に感じる一つだ。
アニメは見てないけれど、学生時代の描写はアニメを模倣してるかのようだった。
「アニメを実写で再現する」ならば高得点なのかもしれないけれど、アニメの演出は、やはりアニメだから成立するのだと思える。雫の子役の芝居は、なんか手本があるかのようで…達者なだけに気味悪かった。
彼女自身は素敵な才能を有してはいるし、前向きにこの役に臨んだのだと思うのだけれど、アレは役者には残酷だと思われる。
こう言っちゃあなんだが、清野さんはこの役の第一候補ではなかったんじゃないかと漠然と思う。
何を提示したかったのだろうか?この現代に、この物語を持ってきて、一体何を語りたかったのか?
夢を持つ事の意義?
純愛?
「耳をすませば」の後を描く事によって、何を問いかけたかったんだろうか?
何にせよ、不可解な人物像から発せられるモノは砂上の楼閣にしか思えない。
海外ロケとか時代考証とかしっかりやってはくれてたのだが…根本が受け入れられなかった。
ジブリ版「耳をすませば」からすると全くの蛇足に思える。