「ラストに免じて細かいことは目を瞑ります」耳をすませば おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
ラストに免じて細かいことは目を瞑ります
ジブリアニメで有名な「耳をすませば」の実写映画化ということで注目していたので、公開初日にさっそく鑑賞してきました。といっても、実はジブリアニメ未鑑賞&原作漫画未読なので、それらとの比較は一切できません。予備知識も事前情報もないままの率直な感想としては、ほのぼのとしたラブストーリーで悪くはなかったかなという感じです。
ストーリーは、読書好きな中学生・月島雫が、同じ中学でチェロ奏者をめざす天沢聖司にしだいに惹かれ、自身も小説家をめざすようになるが、夢を叶えるためにイタリアに渡る聖司と離れ離れになって10年経っても芽が出ず、厳しい現実の前に心が折れかけていくというもの。青春時代の甘酸っぱさと大人社会のほろ苦さが、多くの人の共感を誘います。
大人になった雫は出版社に勤め、聖司はイタリアでチェロ奏者への夢を追い続けており、二人は10年間も離れたままです。その背景を描くため、前半は日本にいる雫を中心に展開していきます。中学時代の回想シーンをふんだんにインサートし、雫の人となり、周囲との関係、聖司との出会い、夢を見つけたきっかけ等、必要な情報を説明的なセリフを用いずに描いていたのはよかったです。ただ、回想シーンが多く、中学生の雫役の子の演技は大げさすぎるし、現在シーンの話は進んでいかないしで、やや退屈に感じてしまいました。
中盤あたりで、雫が壁にぶつかり心が折れかけてから、やっと物語が動き始めておもしろくなってきました。過去インサートが減るとともに、聖司の出番が多くなり、一気に作品の雰囲気が締まった感じがしてきました。まあ、イタリアの女性ネタは取ってつけたような感じがしましたが、それ以外はラストまでイイ感じで作品世界に浸ることができました。全体を通して大きな感動を抱いたわけではないですが、自分と向き合い、自分の心の声に耳をすまし、素直にそれに従い、生きていることの大切さを感じるという清々しいメッセージを受け取った気がします。
主演は清野菜名さんで、いつもの彼女らしく明るくまっすぐに雫を演じています。共演は松坂桃李くんで、他の演者よりも一つ上のステージの演技で魅せ、登場シーンのすべてで作品の雰囲気を高めています。脇を固めるのは、内田理央さん,山田裕貴くん、音尾琢真さん、松本まりかさん、田中圭さん、近藤正臣さんらの一流俳優陣です。ただ、田中圭さん以外はストーリーに大きく絡まなくてもったいなく感じました。過去シーンを削って、これらの人との人間関係をもっと描いてもおもしろかったのではないかと思います。思わせぶりなバロンも、なんだかもったいない扱いでした。