「線でも、面でもなく、点で魅せるストーリーテリング」泣く子はいねぇが ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)
線でも、面でもなく、点で魅せるストーリーテリング
優れたストーリーテラーは物語を線で語る。より優れたストーリーテラーはその線に幅を持たせ、面で観せる。しかし、本作は点を推して魅せる。タイトルが示す通り、映画はなまはげで始まり、なまはげで終わる。つまり、始点と終点は対称関係となる。それには対称となる点が必要となる。映画は人生の転換点というその一点に全神経を集中させる。
特段何の目標もない男が再起をかける物語は多いが、本作の主人公はその再起をかけることさえままならない。全てが空回り、全てが思い通りにいかない。物語はゆっくりと進む。思考不足で優柔不断な主人公の言動に苛立ちを感じる人もいるだろう。しかし、ダメ男映画と一喝することはできない。身勝手な振る舞いによって、自分が意図しなくとも、それが他人の気持ちを無下にした経験は誰にもあることだからだ。
故に宙ぶらりんに生きてきた男が自分自身の過ちの大きさを気付くシーンでの主人公の目の泳ぎ方に私の目頭は熱くなる。ここが転換点だ。言葉でも行動でもなく、現実に目を向けたことによって事の重大さを理解するからこそ、このシーンの重みが増し、物語にコントラストを与え始める。
元妻との“対決”シーンもさることながら、迎えるラストシーンの間の取り方と終わり方の巧妙さは『クレイマー、クレイマー』を初めて観た時と似た余韻を覚えた。ここで終わっていなかったら、作品の持つ印象も変わっていたことであろう。冒頭とラストのなまはげが持つ意味を鑑賞後に観た人たちと色々語り合いたくなる、そんな一作だ。
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