「見終わって後味悪いような微妙な気分に」ジェントルメン haGeoさんの映画レビュー(感想・評価)
見終わって後味悪いような微妙な気分に
このサイトではちょっと違いますが、「死んだ麻薬王の遺産を巡る戦い」、ざっくり言えばそういう風のあらすじを読み、「個性豊かな曲者たちが高度な駆け引き報復合戦を繰り広げ、最終的に聖人君子でなくとも憎めない人物が勝利を収める」といった具合の痛快な内容を連想したので、私はこの映画の視聴を決めました。
そういう期待はことごとく裏切る映画でした。勝ってほしいような「ゲーム」の参加者はロシアの財閥長ぐらいでした。彼は息子がゲームに巻き込まれ死んだので麻薬王に復讐しようとしており、唯一応援出来るゲームに参加した動機を持った人物ですが、理由が理由なだけに状況を分かっておらず、参加者と呼べるか怪しいもので、何より出番はほんの少しでした。
そしてこの映画は終盤まで狂言回しによって(登場人物の一人が遺産を巡る戦いについて説明する体で)進められるのですが、その過去の回想の中で麻薬王は、ピンチらしいピンチに陥る事も、必死になる事も無く、自分の財産を狙う者達を圧倒します。
期待通り高度な駆け引き報復合戦で圧倒しているのなら良いのですが、麻薬王のオーラとでも呼ぶべき謎の力で圧倒しているのがほとんどです。例として、麻薬王は中国マフィアのボスの茶に毒に盛って立場を示す場面がありますが、「じゃあ具体的にどうやって茶に毒を盛ったの?」「そんな簡単にそれなりの地位に居る人に毒を盛れたら苦労しないでしょ」といった疑問に対する答えが、「俺は麻薬王だから気付かれずにお前の茶に毒を盛れる」で、反応に困る訳です。
ゲーム参加者たちもゲーム参加者たちで大胆な手段に出ず、麻薬王の財産を狙うにも関わらず武力対策が疎かだったことが原因で次々とつまらなくやられ、噛ませ犬であるようにしか感じません。
しかし、そんな麻薬王も殺されるシーンを冒頭で既に流されていますので、回想の中で強者として振舞えば振る舞うほど、観客は圧倒的強者が誰かに負ける後の展開に胸を膨らませる訳なので、それが雑であろうが、他の登場人物を噛ませ犬にしようが、大した問題ではないでしょう。
それにも関わらず、後半、麻薬王が実は殺されていなかったと分かり、「俺は麻薬王だからお前の護衛をこっそり帰らせられた」でユダヤ人富豪を片付け、財閥長の襲撃からは運良く助かり、一度は口八丁で危機的状況を切り抜けた狂言回しを麻薬王の右腕がその居場所を突き止め、麻薬王笑い、そのままエンディングです。カタルシスに欠ける。誰かが麻薬王の財産を手にするところを見たい一心の私には、その一言に尽きる結末でした。
とは言え、事の巡り合わせの配置や伏線回収、そういった要素は綿密と計算され、麻薬王の妻なんていかにも使用人をいびったりしてそうで配役も的確で、間違った期待を抱かなければ、良い映画ではないでしょうか。