「爽快な裏社会映画」ジェントルメン 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
爽快な裏社会映画
マシュー・マコノヒーの出演作は映画「インターステラー」が有名だと思うが、当方としては、渡辺謙と共演した映画「追憶の森」の印象が強い。自殺の名所として有名な富士山の裾野の樹海である青木ヶ原に、自殺するために訪れたアメリカ人男性アーサーを繊細に演じていた。
本作品ではアーサーとは打って変わって胆の据わった主人公マイケルを存在感たっぷりに演じてみせた。流石である。コリン・ファレルはアクション俳優というイメージが強かったが、本作品ではボクシングの有名なトレーナーというひと味変わった役柄である。これが似合っていて、登場シーンはワクワクさせた。ジムの練習生が引き起こした事態に対処するのに、そういう謝罪の仕方もありかと感心した。
余談だが、謝罪と言えば、最近の映画ではapologizeという言葉がよく出てくる。アメリカ人と中国人は謝罪しないお国柄だと思っていただけに、ちょっと意外だ。そのうち中国映画でも对不起(トイプチー)が連発されるようになるのかもしれない。
日本の女優でテレビドラマ「相棒」の小料理屋の女将として活躍した女優の高樹沙耶(益戸育江)が大麻はタバコやチョコレートよりも安全だと主張していたが、本作品の主人公ミッキー(マイケルの愛称)も似たようなことを主張するシーンがある。なにせ国民の4割がマリファナを吸ったことがあるというお国柄だ。州によってはマリファナが禁じられていないところもあるし、お隣のカナダは国ごとマリファナが合法である。
本作品はいろいろな仕掛けがあちらこちらにあって、古いタイプのトリックもあればSNS時代に即したシーンもある。ただ赤痢菌に関しては、潜伏期間が1日以上ある上に、症状は主に腹痛と下痢である。しかも75℃の1分以上の加熱で死滅する。そして中国人は夏でも熱いお茶しか飲まない。このシーンだけが唯一残念だった。
他のシーンはとてもよく出来ている。役者陣の演技は見事で、シーンごとに変わる衣装のセンスもいい。短くて的を射ている台詞が多くてわかりやすく面白い。登場人物のそれぞれの思惑が対立や協調、それに裏切りを生み、スマートにいかない現実の尻拭いに文字通り奔走したりと、目を離せない展開が最後まで続く。冗長なシーンはすべてカットした軽快な作品だが、金のペーパーウェイトの伏線は洒落ていた。爽快な裏社会映画だと思う。