劇場公開日 2021年1月8日

  • 予告編を見る

「インドの宇宙機構で、衛星打上げに失敗したリーダーが左遷されるのですが、そこは半社会主義国インドの公務員。クビにできないことを逆手に取り、月より170倍も離れた火星を探査するという大胆な計画を立てます。」ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画 お水汲み当番さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0インドの宇宙機構で、衛星打上げに失敗したリーダーが左遷されるのですが、そこは半社会主義国インドの公務員。クビにできないことを逆手に取り、月より170倍も離れた火星を探査するという大胆な計画を立てます。

2021年1月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

しかし左遷されたチームリーダーには、予算もわずかしか与えられません。
人員に至っては、各部署から余剰人員だけを押し込まれ、その結果できあがったチームは、若い女性科学者ばかりが多く集まってしまいます。
ほとんどの科学者のモチベーションは低く、しかもリーダーの目標が大風呂敷すぎることもあり、どうせ成功するわけがない病に冒されています。

時間も圧倒的に足りないし、資金も人材も能力も足りない。
しかもロシアが成功までに4回失敗し、アメリカが8回失敗した火星探査を、たった2年でゼロから一発で成功させられるはずがないでしょうというのは、知性のある科学者たちなら誰でも見えてしまうことだったからです。

そういう科学者たちの気持ちを、どのように意識を改革し、一本にまとめ、モチベーションを上げ、奮闘させるのか、そこには優れたリーダーのお手本のような言動があり、コーチングの技術があり、私はほんとうに感心させられました。
こうしてみんなが独創的なアイディアを次々にひねり出すようになって、いろんな制約条件を次々に突破し、ついには不可能を成功させてしまうのです。

西インドではタクシーで1km行くのに10ルピー(約25円)で行けるが、我々インド人は、1kmあたり、たった7ルピーで火星まで到達したのだ、と首相が自慢するほどの、つまりは予算不足の中での奮闘。これは大きな見どころです。

プロジェクト・リーダーの片腕役を務める主人公を演じるビディヤ・バランは42歳。
ロケット科学者で、夫と子供を抱えて奮闘する姿が描かれています。
今のインドの中産階級の生活をかいま見ることができ、家族とのサイドストーリーもよく練られていて、話を盛り上げてくれていました。
ほんとうに美しい女優さんで、しかし、かなり太っちょです。
インドでは、女性は太っているほうが評価されるという話を聞いたことがありましたが、こういう人のことを言うのだなと勉強になりました。
たしかに太っちょだけど、魅力的です。

ほかにも、この映画では、科学者の一人一人の背景をきちんと説明し、それぞれを魅力ある人間たちとして描き分け、ドラマ化しており、この映画をおおいに魅力的にしてくれていたと思います。

エンドロールに実際の科学者たちのポートレートも出てきますが、たしかに現実のチームも若い女性科学者ばかりが多いようでした。
映画と現実との違いは一点だけ。
映画には絶世の美人女優たちがズラリと揃っているのですが、実際の科学者たちのポートレートを見る限り、うーむ、たしかにこれが平均的インドの女性なんでしょうねという感じ。

たいへんに面白いお話でしたし、ハリウッドなら宇宙映画1本すら撮れない、そんなわずかな予算しか使わずに、発展途上国が実際に火星探査に成功してしまったというのは、たしかに映画化すべき快挙だと思うのですね。

こういう良い作品を観てしまうと、科学に情熱を感じず、尊敬の念のない日本の映画人が撮った科学映画に、感動が薄い理由も見えてきます。

日本で何本も作られた「はやぶさ映画」では、科学者たちは揃いも揃って十把一絡げで、からきし愛情のない描き方をされ、映画制作者から脇役扱いで脇の方に放置されていたのと正反対。
この映画が成功したのは、科学者だって一人一人が人間であり、愛情と尊敬の対象であり、だからこそ、そこにドラマがあるのだと本腰を据えて描いたお蔭かも知れません。

日本の映画制作者は、からきし科学を知らないくせに、「観客みたいなもの、適当にここをチョチョイと押せば自動的に感動するんだぜ、知ってるかいウヒヒヒ」みたいな甘い下心で映画を量産していることを、観客の側は敏感に察知していると思います。
映画制作者は、もう少し映画の対象に対して敬意を払って欲しいものです。
もちろん観客に対しても。
観客だって馬鹿ではないのですから。

お水汲み当番