「執念のお母さん」ブリング・ミー・ホーム 尋ね人 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
執念のお母さん
代表作であろうTVドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』とやらは全く見てないが、『JSA』『親切なクムジャさん』などの出演映画でその確かな演技力は鑑賞済み。
『親切なクムジャさん』以来14年ぶりとなるイ・ヨンエの映画出演復帰作。
6年前に失踪した当時7歳の息子ユンスを、夫と共に捜し続ける看護士のジョンヨン。希望を捨てないでいた彼女にさらに不幸が。ユンスに似た少年を見かけたという連絡メールが入り、夫がその場所へ向かう途中、事故死。しかもそれは全て悪戯であった。息子は行方不明、夫は亡くなり、ジョンヨンは悲しみと失意のどん底に…。
そんな彼女にやっと朗報が。郊外の漁村をパトロール中の警官から、今度こそ有力な情報が。
ジョンヨンは早速その漁村に向かうのだが…、
社会からあぶれ、はみ出した者、前科者、まともに生きられない者たちの溜まり場…いや、掃き溜め。
そこを治めるのは、事もあろうに地元警察の警長。横暴で、権力を振りかざして。
ジョンヨンが訪ねて来ても、皆口を閉ざす。警長も釣り場を営む一家も皆、ア・ヤ・シ・イ…。
この釣り場には、“ミンス”と呼ばれているおよそ13歳くらいの少年がいる。
6年ほど前に何処かから連れて来られ、働いている…いや、働かされている…いや、こき使われている。
警長や漁村一家らはあからさまにジョンヨンからミンスを隠す。
ミンスは、ユンスなのか…?
ジョンヨンはユンスと再会する事が出来るのか…?
ヒロインに降りかかる不幸の連続。
韓国で年々問題になっている児童失踪、労働などの虐待。
二転三転、“ならではの”衝撃のラストへ。
これぞ韓国鬱サスペンスのフルコース。
『親切なクムジャさん』もイ・ヨンエの為の作品だったが、本作もイ・ヨンエの為の作品と言っていいくらい圧倒的存在感。
母親の強さを体現。
凛とした美しさ、憔悴しきった痛々しさも兼ねて。
ある事をきっかけの鬼気迫る姿は恐ろしいほど。
“親切なクムジャさん”が“執念のお母さん”に。
漁村の連中が本当に胸糞悪い。
韓国の格差社会もそれとなく描かれているのだろうが、ヒステリック、変態野郎…。中には優しい人物も居たが、終盤のまさかの行動はショッキングだった。
中でもやはりダントツは、警長。ヘンな言い方だが、韓国サスペンスに出てくるクソ権力の鑑。
コイツがよく口にするのは、「俺は警察だぞ!」。だから何だ?
ネタバレになるが…、勿論こんな奴は最後は悲惨な死に方をする。その時、「誰も(ユンスを)無関心だったのに、何で俺だけ~!?」。テメェーが警察だからだ。
中盤でジョンヨンはユンスと再会。しかし、韓国鬱サスペンスがそのまま涙の再会になる訳がない。だって、その場所は嵐の埠頭。嗚呼…。
夫も息子も亡くしたジョンヨンは正気も無くしたのか、ここに囚われているもう一人の少年を連れて脱走を試みる。
殺意剥き出しの警長と漁村一家が追う。
韓国サスペンスの十八番。痛々しいバイオレンスとスリリングな攻防。
終幕、個人的にちょっと賛否あるのだ。
翌朝、ジョンヨンが少年を足の上に乗せて穏やかに寝かせるシーン、その後引き取って、車の中で電話で話をするシーン。
息子は死んだ。その悲しみは生涯消えない。しかし、引き取った“新しい息子”と共に、希望を…。
ここで終わって欲しかった。
あの漁村の沖合にある“墓岩”で、波に呑み込まれたユンスの遺体が上がり、抱き締め、嗚咽するジョンヨン。(おそらく本作の一番の泣き所)
そして、ラストシーン。
あの時、上がった遺体から採取したもので思わぬ急展開!
でもねぇ…。
感動的なのだろけど、蛇足感、ご都合主義。えっ!?…と、最後の最後に突っ込まずにはいられなかった。
まあ、韓国鬱サスペンスとして面白かったけど…、
息子じゃなかったんかい!
途中までは良かったんだけど(★4)、最後惜しくて★3・5…(>_<)