「不器用な天才」三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実 ミカさんの映画レビュー(感想・評価)
不器用な天才
原作の本が実家にあったので、本は20数年前に読んだことがあります。本を読んでもその熱気が伝わってきましたが、映像で観た方がその当時の空気感が良く伝わってきました。
日本の作家の中で私が一番好きでハマったのが、三島由紀夫です。まずは、文体の美しさ。文体から目に浮かぶ情景。私は、太宰でも川端でもなく、三島です。
本作を鑑賞して一番感じた事は、三島は1945年8月15日で、生きる意味を見失っていたのではないかということです。第二次世界大戦中は、身体共にまともな男であれば戦争に行き、まともでなければ戦争に行けません。三島は後者であり、非日本男子という烙印を国から押された訳です。この『美しくお国の為に死ねなかった』という虚無感が、後の三島文学、例えば金閣寺に投影されていると思います。身体を鍛え上げたのも、若い肉体のまま美しく死ぬ為だったのかもしれません。三島の最期を知っているからかもしれませんが、画面に映し出された三島から現世に蹴りをつけた様な清々しさを感じてしまいました。
三島を観ていて私は「ゆきゆきて神軍」の奥崎を思い出してしまいました。三島と奥崎は、全く異なる主義主張、思想ですが、戦争によって狂わされてしまった人間という意味では同じなのではないかと。いや、ほとんどの日本人が戦争によって実は戦後も狂っていたのではないか?という恐ろしいことを想像してしまいました。
意外にも討論は和気藹々としていて、三島も余裕綽々な感じがしました。討論というよりもリラックスした語り合いに近い感じです。最近のレベルの低い国会で自民党議員や官僚を見ていたからか、レベルの違いに二度びっくり。三島も東大全共闘も思想の違いはあれど、お互いにお互いを敬っているのでは?と思えたほどです。いや、本当、今の親米の自民党連中や竹中平蔵氏を見たら、三島は何て言うのでしょうか。
『政治の時代』と言われるほどに、世界中で価値観の転換が起きた時代だからこそ、自由に能動的に生きた人も多かったのでしょうね。若者も生意気で血気盛んで勢いがありますしね。日本が、大きな経済成長を遂げたのが分かった気がします。
三島の『永すぎた春』の中に『幸せというのは、どうしてこんなに不安なのだろう』という台詞がありますが、私はこんな不安定な三島、狂気な三島が好きなのだろうと思います。
読んでいなければ、豊饒の海をお勧めします。この作品がある限り、村上春樹は文学賞は取れないと思っています。僕が今まで読んだり、見たりしたストーリーの中で一番だと思います。レビュー共感いたします。
今晩は
私は年代的に、三島さんの著作は没後に数十冊読んだ程度です。世間的な評価も高い著作は大体読みましたが、記憶に残っているのは「青の時代」です。三島さんの末期を知っていたので、鮮明に覚えています。
今作は、ドキュメンタリータッチで描かれた、リラックスした三島さんと、幼子を抱いた芥正彦さんの遣り取りが、鮮明に記憶にあります。
私が学んだ学び舎は半権力の気風の高い学校で、それも今作の鑑賞後の高揚感を後押ししたのかもしれません。
現代の学生さんの知的レベルは仕事柄把握している積りですが、今作で描かれているようなハイレベルの国家の行く末を憂慮した討論を行える人材がどれだけいるのかは、定かではありません。
もし、三島さんがご存命であれば現代の政治、社会に対する辛辣な言葉を聞きたいと思っています・・。