三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実 : 映画評論・批評
2020年3月17日更新
2020年3月20日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
三島由紀夫とは何者か? 猛烈なエネルギーに満ちた討論会を通してその一端を知る
三島由紀夫って、ウヨクの人でしょう? 「仮面の告白」や「金閣寺」を書いた人? 切腹したんだよね――自決から50年。三島由紀夫の名は知っていても、その人物を正しく知る人は、もはや少ないのではないだろうか。
ミシマを知らない人、そしてもちろん知る人にも、この映画は想像以上の発見と愉しさをくれるはず。1969年5月13日、自決の1年前に東大駒場キャンパスで行われた三島由紀夫と東大全共闘の討論会。その様子を唯一撮影していたTBSの貴重な映像を基にまとめられたドキュメンタリーだ。
血気盛んな東大全共闘の学生たちが、ノーベル文学賞候補の文豪であり、肉体を鍛え「天皇主義者」として知られていた三島由紀夫を討論会に呼んだ。思想も立場も異なる三島に対し、彼らは「三島を論破して、舞台上で切腹させる!」と異常なテンションで盛り上がる。そんななか、三島が壇上に上がる。彼は学生たちに、何を話そうというのか?
たしかに討論はハイレベル。だが要所に当時を知る人々や識者たちが登場し、「そもそも全共闘とはなんなのか?」にはじまり、三島由紀夫の成り立ち、そして「なぜ、この討論が行われたのか」「何が論じられているのか」を実にやさしく、わかりやすく教えてくれる。なかでも作家・平野啓一郎氏のやわらかい語り口がありがたい。当時、壇上で三島と対峙した元全共闘メンバーのうち、ひょうひょうとした態度で三島に鋭い論議をふっかける学生・芥正彦氏が、50年を経てカメラの前で放つオーラに身がすくむ。討論のクライマックス、学生が三島にとって「天皇」とはなにか、を聞く。解説者たちそれぞれの「答え」にハッとする。
人と人が正面から向き合い、言葉をぶつけ合う。猛烈なエネルギーを感じながら頭をフル回転させ、議論にくらいついていく。結果、三島由紀夫という人物の一端を知る。その愉しさがたまらない。そしてこれが「闘論」というものかと思う。キャンパスに、街に、政治の場に、いまこんなことができる“大人”はいるのだろうか。
(中村千晶)