劇場公開日 2020年10月30日

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「“失われた10年”に蔓延する不寛容を真正面から描いた凄惨な青春映画」パピチャ 未来へのランウェイ よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0“失われた10年”に蔓延する不寛容を真正面から描いた凄惨な青春映画

2021年2月10日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

舞台は90年代のアルジェ。ファッションデザイナーになることを夢見る女子大生のネジェマは深夜に女子寮を抜け出してナイトクラブに繰り出しては自作のドレスを友人達に売っていた。束の間の自由を謳歌する彼女達の周りに蔓延し始めるのが急進的なイスラム原理主義。ヒジャブの着用を強要し、フランス語を排斥しようとする風潮は彼女達の通う大学や女子寮にも押し寄せてくる。そんな不穏な空気の中で響いた一発の銃弾をきっかけにネジュマは女子寮のカフェテリアでファッションショーを開催、アルジェリア伝統の布地ハイクを使ったドレスを発表することを決意するが、その試みは自分達の生命を脅かす危険との戦いでもあった。

“パピチャ”とはアルジェリアのスラングのようで“そこのキレイなお姉さん“的な意味。ヒジャブを纏わず自由な服装で街を歩くネジュマを執拗にナンパする男が何度も何度もこう呼び掛ける様は、イスラム教の教義を女性を支配するために恣意的に解釈する原理主義者達の偽善を端的に表現するもの。本作に登場する男性は全員クズですがヒジャブ強要のビラが張り巡らされた街やキャンパスで拳を振りかざし喚き散らすのは男性とは限らないところが絶望的で、女子寮の周りに有刺鉄線が張り巡らされ、食事に公然と薬物が混入される世界はとても現実にあったこととは思えないほどに異常。凡庸な終幕を拒絶した展開は辛辣で鉛のように重いですが、本作が問いかけるテーマは今まさに我々が住む世界で問われているもの、広く知られるべき作品だと思います。

よね