「曇天のポルトアレグレで花開く独居老人の恋物語」ぶあいそうな手紙 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
曇天のポルトアレグレで花開く独居老人の恋物語
舞台はブラジル南部の都市ポルトアレグレ。ウルグアイからこの街にやってきて46年になる78歳のエルネストは妻に先立たれた独居老人。時折訪ねてくる息子ラミロにアパートを処分してサンパウロに移らないかと薦められているが住み慣れたアパートを手放す気になれない。ある日エルネストはアルゼンチン出身の隣人ハビエルからウルグアイから1通の手紙が届いていることを知らされる。差出人は昔の友人ルシアで、彼女の夫オラシオが亡くなったことを知らせる手紙だったエルネストは視力がすっかり衰えてしまい手紙を読むことが出来ない。家政婦のクリスチーナに代読を頼んでも手書きのスペイン語は読めないと断られる。そんな折あるきっかけで知り合った上の階に住んでいるビアに手紙を読んでもらってやっと内容を知ったエルネストは返事を書こうにも手元が覚束ない。ルシアの手紙に興味津々のビアに手紙の代筆を頼んだことでビアを介して文通が始まるが・・・。
終始曇天のポルトアレグレを舞台にした地味な人生讃歌。ルシアとエルネストの関係がビアの好奇心から少しずつ明らかになる展開と、頑固な独居老人エルネストが天真爛漫なビアに振り回されながら心の扉を少しずつ開いていく過程が交錯したところに慎ましやかに花開く結末に胸がジンとします。スペイン語とポルトガル語が飛び交うバイリンガルなお話ですがいわゆるラテンなケレン味はほとんど感じられず、その代わりに随所で引用される詩や小説の断片からラテン文学の香りが立ち上っていて、特にウルグアイの詩人マリオ・ベネデッティの叙情詩『なぜ我々は歌うのか』の朗読シーンはある意味本作のハイライトシーン。同じ詩に音楽監督のレオ・ヘンキンがメロディをつけた曲が流れるシーンの優雅さも印象的です。
こういう老境に差し掛かった人間が臨むささやかな冒険に巡り会う機会が多くなりましたが、そんな物語にイチイチハンカチを滲ませる自分もたいがいの年齢になったなとしみじみ思う今日この頃です。