「前作よりもずっとよかった」クワイエット・プレイス 破られた沈黙 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
前作よりもずっとよかった
前作に比べればかなりよかったと思う。意味不明だった凶暴な生物の正体が、本作では事の始まりからちゃんと説明されたのがいい。視覚のない生物が宇宙から地球に辿り着けるという無理な設定には引き続き眼を瞑るとして、本作では家族間の人間関係の変化と成長がきちんと描かれている。
前作ではエミリー・ブラント演じる恐怖過剰のヒステリックな母親に振り回されるだけだった子供たちが、自分の頭で考え、勇気を振り絞って恐怖に立ち向かう。ふたりとも上手に演技をしていたが、特にリーガンを演じた、実際に聾唖であるミリセント・シモンズの演技が優れていた。本作品の主人公はリーガンだ。
父親を無条件で尊敬するのは家族第一主義のアメリカ映画らしい部分だ。「もし私の夫が生きていたらこう言っていた」という形式で他人を説得できるのはアメリカ人だけだと思う。他人の死んだ夫や父親のことなど持ち出されても議論の材料にならないことは、アメリカ人以外なら誰でも知っている。誰々が生きていたらこう言っていたという言い方はレトリックに過ぎない。
キリアン・マーフィーが演じたエメットは、エイリアンが地球に来る前から家族の知り合いだったが、地上に残っている人間たちのことを「あんな連中は救うに値しない」といった意味の発言をする。しかしその真意は不明のままだ。前作も本作も、不明な点が多すぎて至るところ腑に落ちない。
盲目で凶暴なだけなのに何故か地球に来れたエイリアンは、前作と違ってその大きさや形状がはっきりと見える。どう見てもコモドドラゴン並みの知能しか持ち合わせていない。しかしコモドドラゴンよりもはるかに強力な攻撃力がある上に、その動きは目にも留まらず、そのスタミナは計り知れない。
映像と音響は迫力十分である。怪物の数や普段の生息地など、不明のままにしておいたほうが、いつどこから襲ってくるかわからない恐怖を煽られる。突然の大音響にはこちらも何度か驚かされた。それがジョン・クラシンスキーの狙いかもしれない。
前作で怪物の弱点である一定の周波数の音を発見した姉弟だが、本作では姉リーガンがその音を武器に怪物の退治に乗り出す。不器用でリアリティのあるその道程が本作品の見どころである。ヒステリックな母親に代わって、冷静で粘り強いリーガンを主役にしたところが、前作よりもずっとよかった理由だと思う。