「聴覚障害を持つミリセント・シモンズが実質的な主演で魅了。多様性尊重の流れが喜ばしい」クワイエット・プレイス 破られた沈黙 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
聴覚障害を持つミリセント・シモンズが実質的な主演で魅了。多様性尊重の流れが喜ばしい
本作、配給側のネタバレ防止協力要請がかなり厳しめで、人間を襲うものの正体を明かさず、「音に反応する“何か”」と表現するようにとのこと。1作目未鑑賞の人に楽しみをとっておいてほしい、という趣旨だそう。原題が「A Quiet Place Part II」なのに邦題では「2」が入らないのも、前作を観ていない客も呼び込みたいとの思惑だろうか。
ともあれ、音をたてると瞬時に“何か”に殺されてしまう過酷な世界、人類が激減してインフラも壊滅した状況で、どうにか生き延びているアボット一家が引き続きストーリーの中心に置かれる。前作では命懸けで子供たちを守ろうとする両親が主導的な役割を担ったが、今作は長女リーガンとその弟マーカスの精神的成長が重要なポイントに。エミリー・ブラントももちろん前作同様にタフな母エヴリンを熱演するのだが、リーガンがある目的のため家族と離れて行動する展開からは、演じるミリセント・シモンズが実質的な主役になる。
シモンズは実際に聴覚障害を持ち、2017年の「ワンダーストラック」で聴覚障害がある少女の役をオーディションで勝ち取りデビューを果たした女優。日本公開が偶然同じ日になった「RUN ラン」でも、実生活で車椅子生活を送るキーラ・アレンが主演の1人に抜擢されている。米映画界が白人男性優位の批判を浴びてから多様性尊重の実践に努めてきた流れの一環としてとらえることができ、障害者を含むマイノリティーのキャスティングが増えるのは大いに歓迎したい。しかも、共演する健常のスターに匹敵する名演を見せているのが何より素晴らしいではないか。
ブラントと実の夫婦でもあるジョン・クラシンスキーが前作に続き監督・脚本・製作を兼ねている。サバイバル劇の中、親世代から子世代へ、勇気と希望の継承を鮮やかに描いた手腕に喝采を送りたい。