「OVAの比較と十字傷の解釈」るろうに剣心 最終章 The Beginning ニックさんの映画レビュー(感想・評価)
OVAの比較と十字傷の解釈
るろうに剣心シリーズ(アニメ、漫画、映画全て含む)の中でもOVA(追憶編)が1番好きだったので映画を観てきました。
OVAは海外ですとサムライX(エックス)という残念なタイトルに改変されてますが、本格的な時代劇アニメとして国内外でも評価の高い作品です。
感想としては9割ぐらいシナリオを踏襲していたので満足でしたが、その分不満な点もありました
★【満足点】
原作OVAのストーリーをほぼ改変しなかったこと
殺陣のシーン
★【不満点】
1.省略された表現
①アニメ版(以下OVAと呼称)では幼少期の剣心と師匠である比古清十郎が出会い、飛天御剣流を教わるきっかけとなった出来事がありました。
その中でも剣心の性格を表すエピソードや比古清十郎
の名言(春は夜桜〜略)、白梅香の香りの意味など重要なエピソードが丸ごと省略されています。
②恨みが込められた傷から血が滴るなどの演出もあったのですが、これも省略されております。
結論でも触れますが、重要な意味を持っていると思います。
③「人を斬っていない時のあなたは優しすぎる」
上記は巴の心情の葛藤を表す表現として残しておいてほしかったです。
2.キャスト
①本作の主役でもある雪代巴を有村架純が演じました。
しかし、設定として雪代巴はエヴァンゲリヲンの綾波レイをモチーフとした説があり、演技は良かったのですがイメージとは違うと感じました。
②裏切り者の飯塚はひょろっとしていてキツネ顔のような人物なのですが、本映画では狸顔のごつい感じの人になっており、違和感を感じました。
③沖田総司も賛否分かれそうです。イメージという点でですね。
3.飯塚の暗殺者
原作では剣心の人生を狂わせた贖罪としての意味もあり、手を汚さないと誓ったはずの桂小五郎自身が飯塚を暗殺します。
ところが上記の出来事も会話の中だけで終わり、省略されています。
思い切って志々雄を暗殺者として雇ったことにして、最後の鳥羽伏見の戦闘シーンに少しだけ出てくるようなサプライズ演出があっても良かったのではと思いました。
また、桂の人物背景はほとんど描かれませんでした。
★【十字傷についての個人的な推測と解説】
まず十字傷の1本目の傷は恨み(呪い)として、2本目の傷は巴からの想いが込められた傷です。
夫を殺された恨み、憎しみ、全てを投げうってでも仇を取ると誓った相手に惹かれていく心、亡き夫への懺悔の気持ち。
揺れる巴の心情を最後の一太刀に乗せて上手く表現されています。
本映画では描かれませんでしたが、OVAでは恨みが込められた刀傷は癒えることがなく、たびたび頬の傷口が開く描写があります。
もののけ姫のアシタカが受けた呪いのようなものです。
しかし本当は慈悲深い心と優しさを持った剣心と過ごしていくうちに迷い、傷つき、時代に翻弄されながらも人斬りとして生きていく姿に巴は最後の最後で剣心の頬に傷をつけ、赦(ゆる)しの印(しるし)を上書きすることで呪いが消えます。
巴によって赦された十字傷はその後、明治の時代が訪れても傷口が再び開くことが無かったのではないかと私は解釈しています。(呪いが解けたという意味で)
また、時代背景の点から見ても武士道が道徳の基本であり、女性に対する役割(価値観)が厳しい江戸末期の時代において、夫の仇を愛することがどれほど罪深いことだったのだろうか…
巴の心中を察するにはあり余る悲しさを感じることができるだろう。
それでも剣心を愛した証としての傷、泣き夫への想いからの傷、愛した夫(剣心)の身体に傷をつけるという行為…
まさに剣心にとっては忘れらない愛情と記憶、痛み、罪、祈りが込められた「十字架の傷」となったのではないだろうか。
しかし同時に残酷な抜刀斎を捨て、優しさを持った剣心としての人生を歩んでほしいという巴の願いが刻まれた瞬間でもあったと私は考えております。
このように十字傷には私が考えるだけでも様々な解釈ができます。
★【余談】
OVAでは椿の花がたびたび出てきます。花言葉は「控えめな美しさ・愛」です。
しかし、オペラでも上演されるフランスの小説「椿姫」で登場する椿は「裏切る女」としての意味合いも持ちます。
恐らくこの小説からインスパイアを受けたので、白い着物や赤い椿、生理の描写や日記のシーンがあるのだと思います。
巴という人物を表すための製作者のオマージュだと思うと物語に深みが増しますね。
★【総評】
アニメと比べるのも酷ですが、繊細な表現(画や場面カット、音楽、声優さんの声の表現)はOVAの方が上手ですし、好きです。
全てのセリフに心理描写や状況の説明、含みを持たせた意味のある発言など、無駄な会話がないからです。
このことから監督や本作に関わった方々も映画の尺の制約のある中、特に大変だったのではないかと思います。
安易に会話を減らしたり増やしたりすれば作品の持つ世界観を崩してしまいますから。
個人評価の結論として、アニメ版のOVAが1番好きな点は変わらなかったですが、映画も細かい点を除けば出来が良く、観に行って良かったです。