「これ以上、何を望めと!」るろうに剣心 最終章 The Beginning おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
これ以上、何を望めと!
るろうに剣心 最終章The Beginning。そのタイトルにふさわしいすばらしい作品でした。前作の中で、剣心の不殺の誓いや十字傷の謎は、その発端や概要が語られています。正直、それをわざわざ別作品として取り上げる必要があるのかと思っていましたが、全くの愚問でした。るろうに剣心としてのルーツが、これでもかというほど丁寧かつ繊細に描かれています。
開幕早々の大立ち回りこそ過激に描かれていますが、本作は全編通して静かに淡々と進む印象です。映像の明度も彩度も抑えぎみで、笑えるシーンもなく、人斬り抜刀斎としての殺伐とした内面を表すかのようでした。アクションシーンも、もちろん見応えのあるすばらしいものでしたが、ストーリー上必要な場面だけにとどめているようでした。派手な立ち回りより、異なる信念のぶつかり合いが、不幸で凄惨な結果をもたらしたことを描こうとしているように感じました。
ストーリーも映像もどちらかといえば地味なのですが、まったく退屈しません。それどころか、ずっと惹きつけられっぱなしです。その要因は、間違いなく役者陣の渾身の演技です。中でも、佐藤健くんと有村架純さんは秀逸です。一つ一つのセリフはもちろん、細かな動き、視線、醸し出す空気から、細やかな心情の変化がひしひしと伝わってきます。もはや演じているというより、役と一体となっていると言ってもいいでしょう。
そして、シリーズ完結編にThe Biginningをもってきた意味。倒叙型の構成となったことで、雪代巴の隠された想いと悲劇的な結末、その後の剣心の生き方を、観客は知っています。知っているからこそ、巴の振る舞いがいっそう切なく悲しく映り、剣心にとっての巴の存在の大きさをより実感します。終盤で、二人の田舎生活が描かれると、カウントダウンが始まったような気持ちになり、剣心の笑顔に、巴の複雑な表情に、何度も目頭が熱くなりました。そんな中、ついに来てしまった悲劇的瞬間。ここに「人斬り抜刀斎」は消え、「るろうに剣心」が誕生したことが、観客の心に焼き付けられ、ラストでスクリーンいっぱいに映し出される「るろうに剣心」の文字。完璧です。