「憎しみから愛へ、不殺の誓い」るろうに剣心 最終章 The Beginning 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
憎しみから愛へ、不殺の誓い
10年で5作。
近年の実写邦画で、これほど長くヒットし続けた人気シリーズも無い。
遂に最終作。
それにしても今回の最終章はちとややこしかった。
前編が“Final”。
この後編が“Beginning”。
普通、逆では…?
しかも、『Final』でハッピーエンド的に完結してしまっている。
これ以上、何が描けるのだろう…?
…いや、描ける物語はまだあった。
緋村剣心。
ミステリアスな男。謎に包まれた素性。
その過去は一応シリーズの中でも触れられてきたが、あくまで断片的に。
しかし今回は一つの物語として。
伏線が繋がり、全ての謎が明かされた時、映画『るろ剣』は万感のフィナーレと始まり(Beginning)を迎える…。
明らかに今回は、シリーズの中でも異質。
まず、作風。
これまでは一貫してエンターテイメントだった。1作目は最も王道。『京都大火編』&『伝説の最期編』は最も大スケール、『Final』はコンパクトに纏めたオーソドックス。それらに対し本作は、暗く重い。
これまでは良くも悪くも少年漫画的展開。脅威的な強敵が現れ、一度ピンチに陥るも、最後は逆転する。一応今回も対する新撰組の他に、命を狙う隠密集団が登場するが、それらと戦うのがメインではない。
映画『るろ剣』と言えば、アクション! これまで超人的で邦画最高峰とも言えるアクションに興奮させられてきた。勿論今回もアクションはある。…が、今回のアクションにカタルシスさは無い。
“人斬り抜刀斎”と呼ばれ、逆刃刀ではなく真剣を使っていた頃の剣心。アクション・シーンは残酷。
剣心自身も優しさやユーモラスさの欠片も無く、「おろ?」も「ござる」も無く、一人称も“拙者”ではなく“俺”。
そんな彼を変えたのは…
かの『スター・ウォーズ EP3』のように、今回の『Beginning』はこれまでのシリーズや前作『Final』の回想エピソードから、大まかな話やそれどころかオチも分かり切っている。
新時代到来を信じ、長洲藩の元で人斬りとして暗躍していた剣心。
一人の若い見回り志士を斬り、己の所業に葛藤してきた時、出会う。
酒場で男共に絡まれていた所を助けた女性。巴。
孤独な男と孤独な女。何か悲しいものを抱えた両者。何処か似た者同士。
池田屋襲撃後、新撰組に勢い押され、長洲藩は身を隠す宿に居られなくなり、散り散りに。剣心と巴は人気の無い農村へ。
あくまで形だけの夫婦のような暮らしの筈であったが、静かで穏やかな暮らしが徐々に形だけではないものにしていく。
距離を縮めていく2人。
惹かれ合っていく2人。
剣を鞘に収めた幸せな時が流れていくが…
『Final』を見ていれば別にネタバレではないが、敢えて伏せ。
巴にはある衝撃の真実が…。
それを知って、剣心は…。
コロナを経て待望公開されながらも、思いの外賛否の声激しかった『Final』。
ひょっとしたら今回は、それよりももっと激しく分かれるかも。
今までのような超人アクションが見たい人には期待外れだろう。
と言うかそもそも今回は、アクションがメインではなく、ドラマがメインなのだ。
そのドラマも、少年漫画実写化作品の中で、なかなかお目に掛かれないほど重厚で見応えあり。
ドラマチックで、これは剣心と巴の哀しきラブストーリー。
全て分かっていても、ここまでじっくり描かれると、非常に胸打つ。
剣心役として、本作が最も難役であったであろう。最後でもあり、佐藤健が全身全霊で体現。
そして大トリを飾ってくれたのは、有村架純。巴に込めた美しさ(着物姿は色気すら漂う)、哀しさは絶品。武井咲は何だったんだ?…ってくらい。(失礼)
ちと不満は無い訳ではない。
2人のドラマがメインなので、お馴染み江口洋介やせっかく今回初登場の桂小五郎=高橋一生や沖田総司=村上虹郎を迎えたものの、これまでと比べるとアンサンブル色は薄く…。
特にガッカリだったのは、隠密集団の首領、北村一輝。噛ませ犬だった…。
そのクライマックスのアクション・シーン、『Final』で見て剣心が勝つのを知っていたのが、痛手。
それを如何にスリリングに見せるか。例えば、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のクライマックスはいつ見てもハラハラドキドキさせられる。ちと技巧が足りなかったか。
しかし、この10年5作に及ぶ監督・大友啓史&アクション監督・谷垣健冶には最大級の賛辞を贈りたい。2人の功績は邦画アクション史に残り続ける。刻まれ続ける。
スタッフたちも勿論。ドラマチックな佐藤直紀の音楽。細部まで造り込まれた美術、衣装、ヘアメイク。これまではスピーディーだったが、今回はじっくり見せた編集。ダイナミックな映像。
クライマックスの農村の雪景色。画になる美しさであると共に、あのシーンになった時、私は悲しくもなった。
避けられない悲劇が…。
何が剣心を変え、“不殺の誓い”を立てさせたのか…?
愛した妻をこの手で斬ってしまったからでもあるだろう。
そんな妻が教えてくれた。
愛は憎しみに勝る。
巴は憎しみを持って、復讐の為に剣心の前に現れた。しかし共に過ごす内に剣心を心から愛するようになり、最期は身を犠牲にして…。
元々は許嫁を斬った相手。愛せる訳が無い。が、憎きこの男にも心があった。
変われる。時間をかけて。彼も。私も。
命をかけて教えてくれた妻に応えれねばならぬ。
もう二度と人は殺めない。
それでもきっと、戦わなければならない時がやって来るだろう。
再び、剣を握る時がやって来るだろう。
しかしその時は、殺めず、命をかけて守りきる。
不殺の誓い。
この逆刃刀に賭けて。
亡き妻への想い。
新たな大切な“家族”の為に。
レビューの中に、『Final』と『Beginning』の公開が逆の方が良かったという声が多々ある。
私はそうは思わない。
最終章前編はハッピーエンド的に締め括り。
最終章後編は全ての謎や伏線回収。同時に、また1作目が見たくなる憎い構成。
タイトル通り、終わりで始まり。
流浪人剣心の物語が、ここに。