「左手の薬指」マヤの秘密 カールⅢ世さんの映画レビュー(感想・評価)
左手の薬指
ノオミ・ラパスが主演で制作陣にも名を連ねています。1960年頃のアメリカの町。アメリカ人の医師と結婚したルーマニア人女性は戦争中にドイツ兵から受けた性的虐待によるPTSDに苦しんでいた。ある時、町で自分をレイプしたドイツ兵のカールと思われる男を見かけてしまう。復讐のために計画的に男を襲い、クルマのトランクに拉致することに成功する。
原題は The Secrets We Keep.
We の意味するところは互いの夫婦だけではないダブルミーニング的な題となっている。
マヤには夫に秘匿していた過去(出自)があった。ナチス強制収容所に容れられていたマヤとその妹。ドイツ敗北後、ルーマニアを目指していたが、ゴーカンされ、妹は殺された。PTSDのせいで記憶が曖昧で、自分は妹を見捨てて逃げたのでないかという罪悪感にも苛まれ続けていた。
トーマスも元ドイツ兵のカールであったことを隠し、スイス人と偽り、ヨーロッパを捨ててアメリカに移住することを目的にユダヤ系アメリカ人の女性と結婚していたのだった。
夫にロマであることを隠していたマヤ。そのために強制収容所に入れられていたことも隠していたため、精神的に不安定な原因がドイツ兵による性的虐待によるPTSDであることも言えなかった。
ともに配偶者に言えない秘密をもち、PTSDに苦しんでいるマヤとトーマス(カール)が哀れで仕方ないのだが、マヤはカールにシンパシーを感じはじめ、殺さないて赦すことも考えはじめていたようだった。地下室で拷問され、あげくのはてに殺されてしまうカールのほうにむしろ同情してしまった。直情的で残忍なマヤにおののき、やっぱり「ロマ」の血のためかとも思ってしまった。ノオミ・ラパスの狂気の演技はとても切れ味が鋭かった。さすが。
両親がロマの場合と片親だけロマのハーフでは差別に重大な差があることも示唆されていて、興味深かった。
ポーランドでは人口の約10%がロマであるが、その事実を認めること自体がタブー視されている。差別問題は深刻で根が深い。「愛を読む人」のケイト・ウインスレットを思いだしました。